「嗅覚で楽しむエンターテインメント」を題材にした、ユニークな体験型イベント「におい展」が神戸煉瓦倉庫で4月3日まで開催されている。筆者もイベントに足を運び、ソニーが2022年に「におい制御技術」として発表した「Tensor Valve(テンソルバルブ)」によるエンターテインメントに触れてきた。においで味覚を伝えるデバイス「魔法の香りコップ」を新たに試作した背景についても、テンソルバルブに関わるソニーの藤田氏と森田氏に聞いた。
エンタメ方向にも開花するソニーの「におい測定技術」
「におい展」は、文字どおりさまざまな「におい」の体験を目的としたイベントだ。視覚と聴覚に比べると、これまでエンターテインメントの領域では十分に開拓されてこなかった嗅覚を前面に押し出したイベントは、7年前の初開催から注目を浴びた。コロナ禍の影響により一時休止していたが、2024年夏に再開を果たした。
ソニーは2022年に発表したテンソルバルブ技術を載せたポータブルサイズのにおい提示装置「NOS-DX1000」を、昨年のにおい展に出展した。そしてとても大きな反響を呼んだ。
ソニーのにおい提示装置は、元は研究・測定向けの業務用デバイスとして2023年に製品化された。藤田氏によると、その後は医療・研究機関や企業の商品開発の現場から数多くの引き合いを得ているという。におい提示装置の核は、小型のアクチュエーターと呼ばれる電子部品だ。ここに微量の液体を封入した交換式カートリッジを装填して、液体に含まれる嗅素を狙った位置にすばやく噴霧する。箱や瓶に封入した液体・固体のにおいを嗅ぐ従来の方法と比べて、ソニーのテンソルバルブは香りの噴霧が繊細にコントロールできる点が大きな特徴だ。
においをすばやく提示するだけでなく、それをすぐに消すこともできる。この特徴をエンターテインメントの用途に応用すると、例えばドアを開けた瞬間だけ特定の匂いを提示し、閉じると匂いが消えるといった、場所の移動や時間の経過と連動したダイナミックなイベントの演出も可能になる。
におい展で公開した「においクイズ」においても、瞬時に香りを切り替えて来場者に提示できることから、ゲーム体験がテンポ良く進む。
