藤田氏は、においを提示する技術がエンターテインメント領域に大きな可能性を持つことに以前から着目してきた。原点はソニーが社員の家族を集めて定期開催するファミリーデイのイベントで、過去ににおい提示装置を公開した時のことだった。「業務用」として出したはずの製品が、集まった大勢の子どもたちから圧倒的な人気を博した。
「一般の方々、特に子どもたちが嗅覚体験に対して強い関心を示してくれます。そのイベントで何度もにおい体験を楽しむ子どもたちの様子を見て、私は嗅覚エンターテインメントに大きな可能性があることを確信しました」(藤田氏)
人気の「におい展」にソニーが出展する理由
森田氏は、ソニーの嗅覚事業に関わるテンソルバルブの技術からプロダクトまですべてのマーケティングを担当する責任者だ。森田氏はソニーが「におい展」に共催パートナーとして参加することになった経緯を次のように振り返った。

「従来の臭いの提示手段では、イベント会場にさまざまな臭気が充満してしまう課題がありました。イベント会場に隣接する施設にまで臭いが漏れて迷惑をかけてしまうことも、におい展の主催者の頭を悩ませていました。解決するために空調設備を整えるとしても100万円以上の費用が必要です。臭気を拡散させることなく、効率よく来場者に伝えられるテンソルバルブのテクノロジーが諸々の課題を解決しました」(森田)
神戸煉瓦倉庫で開催されている今回の「におい展」では、テンソルバルブ技術をエンターテインメントに活用したいくつかのユニークな展示に触れられる。
例えば「真実の口」のオブジェにNOS-DX1000を組み込んだ「におい当てクイズ」は、今回のにおい展でも1、2を争う人気を博している。真実の口から漂ってくるさまざまな香りを体験して、タブレットに表示される候補から正答を選ぶというシンプルな内容だ。筆者も会場で展示を体験した。そして確かに多くの来場者が「真実の口」の前で楽しそうに過ごす様子を目の当たりにした。来場者はみな、嗅覚を通じてエンターテインメントに深く没入していた。