『Forbes JAPAN』2025年5月号の第二特集は、米『Forbes』注目企画である「50 OVER 50」の日本版。「時代をつくる『50歳以上の女性50人』」たちのこれまでの軌跡と哲学、そして次世代へのメッセージを聞いた。
あまたのハリウッド巨匠監督の信頼を集める日本人映画編集者・上綱麻子。「SHOGUN 将軍」など数々の映画・ドラマに参加した彼女が大切にすることとは。
マイケル・マンをはじめとする有名映画監督の信頼を集め、ハリウッドで活躍する日本人映画編集者がいる。自身も映画監督である上綱麻子だ。16歳で広島から単身渡米し、現在まで数々の映画やドラマに参加。エミー賞やゴールデングローブ賞で脚光を浴びた真田広之プロデュースのドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」ではコンサルタント・プロデューサーを務めた。日本では比較的注目されづらい映画編集者という仕事だが、監督のビジョンを多彩な技術で支える映画づくりの重要な立役者である。そうそうたる作品に携わる彼女の原点は映画に魅せられた6歳の頃にさかのぼる。
「幼い頃から漫画が大好きで、ひたすら絵を描いていました。映画館で映画を見たとき、こんなふうに大きな絵をつくってつなげる仕事があるんだと知り、『これなら私はできる』と根拠のない自信をもっちゃったんです」
日々洋画に触れ、映画を通じて世界を見た。ハリウッドで映画の仕事に就くという決意を早々に固めると、高校を中退。大学に入学するまで家族に連絡しない、と啖呵を切って渡米した。アメリカで通用する映画をつくるには、アメリカ人の考え方の原理を研究しなくては、との考えから、コロンビア大学で西洋哲学を専攻。「アメリカに染まらないといけない時代だった」と振り返る。その後、ニューヨーク大学大学院で映画づくりを学んだ。ディー・リース監督『アリーケの詩』(2011)で映画編集者として注目を集めるようになる。
自分を信じることには価値がある
24年に出版した『映画の切り札 ハリウッド映画編集の流儀』(星海社新書)には、ハリウッドで培った映画編集の技術や考え方に加え、現場で経験したリアルなやりとりがつづられている。なかでも『ブラックハット』製作時、マイケル・マン監督が映画編集の最終盤で出したとある指示に、クビ覚悟で反論したというエピソードは印象的だ。
「何かを守りたいときにすごい力を発揮することってありません? 監督の指示は私の目には明らかに作品にとって疑問に思える選択でした。クビになって、監督と二度と仕事ができなくなったとしても、いろんな人の技術や努力が結集した作品を守らなきゃと思ったし、作品を守ることは結果的には監督を守ることになるはず。何よりここで自分を曲げたら、この先自分のことが信じられなくなってしまう、と思ったんです」
疲労と絶望が充満した編集室で誰も監督に意見できないでいるなか、すごい剣幕で異議申し立てをした上綱の提案は、結果的に受け入れられた。
「たとえ間違っていても、何かを守ろうとする自分を信じることには価値がある。頭じゃなくておなか、言葉じゃなくて感覚。それを信じるしかないですから」