『Forbes JAPAN』2025年5月号の第二特集は、米『Forbes』注目企画である「50 OVER 50」の日本版。「時代をつくる『50歳以上の女性50人』」たちのこれまでの軌跡と哲学、そして次世代へのメッセージを聞いた。
「50 OVER 50」特集の最後を飾るのは、選出した50人のなかでも多彩なふたり。50歳を超え、最前線で活躍するふたりの対話から生み出された「今だからこそ伝えられる」言葉とは。
今回、「50 OVER 50 2025」に選出した50人のなかでも多彩なふたりをお招きして「ひと世代下」に向けた対談を行った。ひとりは出版社「クオン」社長の金承福(キム・スンボク)。日本における韓国文学ブームの立役者のひとりで、ノーベル文学賞受賞で注目を集めたハン・ガンを日本に紹介した人でもある。もうひとりはジェーン・スー。コラムニストで、大人気ポッドキャスト番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』のパーソナリティを務め、幅広い層から熱い支持を集めている。
「自分らしい仕事・生き方」をつくり上げる秘訣はどこにあるのだろうか。「なかなか芽が出ない」「先行きが不安」と足踏みをしている「ひと世代下」に向けて、ふたりが語る言葉とは。
──早速ですが、おふたりの人生のなかで「あの時は頑張ったな」「踏ん張ったな」と思う時期について聞いてみたいです。
金承福(以下、金):まさに「今」です。ハン・ガンさんがノーベル文学賞を受賞して注目されているタイミングなので、それに関連した仕事が踏ん張りどころです。本の注文もひっきりなしだし数々の取材対応も。すっかり「ハン・ガン痩せ」しています(笑)。頭のなかに金承福が20人くらいいて、朝起きるとその20人がめいめいに命令してくるんです。目が回るし大変だけど、好きなことだから本当に毎日楽しいですよ。
ジェーン・スー(以下、スー):好きなことをやる、得意なことをやるって大事ですよね。
金:私は大学生の時に留学生として日本にやってきたんですが、韓国でIMF(国際通貨基金)危機があったから日本での就職を余儀なくされました。そのあとは2008年のリーマン・ショックの影響も大きく受けました。人生は自分の意思とはまったく関係なく、外から吹いてきた風に影響されてしまうんだ……とつくづく思ったんです。だから自分の人生は自分で決めたい、好きなことをやろう、という決意が、出版社「クオン」立ち上げにつながっています。
スー:私は就職氷河期第一世代にもかかわらず、金さんほどは社会的な出来事の影響を受けずに済んだのですが、新卒で入った音楽関係の会社ではいわゆる「夜討ち朝駆け」の相当無茶な働き方をしていました。子どものころから「根性がない」「頑張りが利かない」「すぐ諦める」と言われて育ち、自分もそう思っていたんですが、なぜか仕事だけは頑張れた。楽しかったんです。ああ、私、仕事は得意なんだって気づけたことが、かなりエポックメイキングな出来事でした。
──スーさんにとっても、その仕事が「好きなこと」であるかどうかは重要ですか?
スー:やりたくないことはやらない、というほうが私にとっては大事かな。勤務時間が9時5時で給与も安定しているけれど、仕事内容に起伏のない生活をするとか、大きい組織で昇進していくとか、そういうことに興味がもてないんです。興味がないことは、頑張りたくない。いろいろ試してみて、これは自分には合わない、やっぱりいらない、とうまく取捨選択できるようになったのは40代になってからだと思います。