──特に女性は、ジェンダーロールを内面化し、自分の可能性にふたをしてしまっている人がまだ多いような気がします。おふたりはどうですか?
スー:私は子どものころから体が大きかったし、はっきりものを言うタイプだったから、常に既存のジェンダーロールからはみ出す存在だったんですよね。世間が好ましく思う女の像ではいられなかった。そんな自分を、責めることをやめたのは30代後半の時です。自分らしくてもいいのよというメッセージを届けたくて、日本全国を講演して回っています。自分のなかに巣くう無意識の思い込みを解体していこうという話は、東京ですると「そうだよね」って同意してもらえますが、地方ではやっぱりまだまだ温度差を感じます。私が地方での講演を大事にしている理由は、ジェーン・スーに興味がある人が自分の周りにこれだけいると会場で目視してほしいからなんです。自分が住んでる地域にもこんなに仲間がいるんだ、自分だけじゃなかったんだ、とわかると元気につながるから。
金:スーさんすごい、しっかりしていますよね。私は、あんまり自分が女性であることを意識してこなかったんです。スーさんと一緒で、私も人前ではっきり話したりリーダーシップを発揮したりするのが好きな子で、しかも、中学生までアボジ(お父さん)と一緒の理髪店で髪の毛を切ってもらっていました。そんな育ちだったこともあり、女だからこうしなきゃ、みたいな抑圧は感じることがなかった。
スー:韓国の社会だと、金さんみたいなタイプはけっこう珍しいんじゃないですか。
金:すごく特殊だと思う。私は、とにかく新しい世界に行きたい、好きなことがしたい、という気持ちだけでやってきたようなところがあります。
スー:今、日本で好まれている韓国のエッセイや小説って、フェミニズムを主体にしたものが多いですよね。金さんはこの潮流をどうご覧になっていますか?
金:韓国のフェミニズム小説は『82年生まれ、キム・ジヨン』などをはじめ本当に素晴らしいものが多いです。と同時に本を紹介する立場としては、フェミニズム以外にも韓国文学の多様さを知ってもらうためのお手伝いがしたいな、と思っています。ほかにも、日本でも人気のエッセイ『私は私のままで生きることにした』(キム・スヒョン)のように、「競争しない、頑張りすぎない」という文脈の本が韓国で今すごく読まれていて、「워라밸」(ウォラベル /ワークライフバランスの意)という言葉もはやっています。でも、バリバリ働くのが好きな50代の私は、「会社にいる8時間もあなたの人生だよ」と言いたくなるし、そういう本もちゃんと見つけて紹介したりしています。
スー:おっしゃっていること、わかる気がします。物事にはバリエーションがあるということですよね。女性について語るときにも、これは言い方が難しいんだけど、「弱者」というアイデンティティだけで自己認識が固定されないほうが当然よいわけで。弱者の一面はありつつも、「それだけじゃない」と自認できることが大切だと思う。
