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2025.03.30 11:30

「あなたがあなた自身に許可を与えなきゃ」ハリウッド映画最前線で活躍する理由

上綱麻子|映画編集者

上綱がコンサルタント・プロデューサーを務めたドラマシリーズ「SHOGUN 将軍」でも、譲れないものを守るための攻防があった。日米製作陣のせめぎ合いを「すごく良い勝負だった」と振り返る。「海外から見ると“ジャパニーズサムライワールド”はファンタジー。でも日本人にとっては文化・歴史であり、リアルなもの。『ゲーム・オブ・スローンズ』のような世界観をイメージするアメリカ側に対して、真田(広之)さんは、妥協すべきでないところは譲らなかった。日本人の価値観の表現を死守したい、と。作品がこれほど魅力的なものになったのは、裏でそのような切磋琢磨があったからだと思います」

ハリウッドではポン・ジュノ監督の『パラサイト』がアカデミー賞を獲得して以降、アジア系の物語の躍進が続く。人権やダイバーシティへの意識の高まりなどもあり、アジア人にとって“チャンス”ともいえる状況にあるが、上綱はあくまで冷静だ。

「したたかなハリウッドに迎合するのではなく、自分たちの価値を見つめることが重要です。自分たちにミラーを向けて、譲れないもの、海外にはなくて我々にあるものは何か、自己定義しなくてはいけない。ムーブメントに便乗するのは簡単。でも、あなたにとってこのムーブメントの意義は何なのか? 主語を自分にして探らなくちゃ。自分たちの強みはいったい何か? しっかり見極めて、もっと遊び心をもってチャレンジしてほしいです」

映画編集者として活躍する上綱だが、初めて脚本を書いた大学時代から監督として温めている企画がある。第二次世界大戦後に広島で医院を開いた自身の祖父が題材の映画だ。

「広島では原爆が落とされた瞬間から今も時間が刻み続けられている。原爆を戦争の“終止符”ではなく“出発点”として、広島人が体験した歴史を見つめ直したい。祖父の物語を通して、原爆という大きな歴史に隠されてしまった人間ドラマが見つかるのではないかと思うんです」

25年は戦後80年。戦争体験者の数は年々減っている。「あの世代の人たちがまだいらっしゃる間に会話ができるチャンスをなくしたくない。これは私が映画人として託されたものなので、もてる技術をすべて懸けてかたちにしたいです」

映画を信じ、自分を信じ、人生を切り開いてきた上綱。最後に下の世代へのメッセージを求めると「You have to give yourself permission.(あなたがあなた自身に許可を与えなきゃ)」と答えた。

「他人の許可や条件が整うのを待つのではなく、やりたいことをやる許可を自分で与えること。自分は何に情熱をもてるのか自問して、素直になることが大事なんじゃないかな。周りのせいにしちゃいけないんです。自分がいちばんの障害になりうるんだから」


上綱麻子◎テキサス州ヒューストン生まれ、広島出身。映画監督を志し16歳で単身渡米。コロンビア大学にて西洋哲学専攻後、ニューヨーク大学大学院映画学科で学ぶ。ディー・リース監督作品『マッドバウンド 哀しき友情』、マイケル・マン監督作品『ブラックハット』など、多数の映画、映像作品の編集に携わる。『WE ARE X』の編集でサンダンス映画祭最優秀編集賞を受賞。ハリウッドにて活躍中の日本人映画編集者。

文 =後藤美波 編集=南 麻理江(湯気) 写真=若原瑞昌

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