WOMEN

2025.03.29 15:00

三宅香帆が50代に望む「成功より失敗を語ってほしい」

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成功より失敗を語ってほしい

──誰かのロールモデルになりうる先輩たちの側に求めることはありますか。

三宅:結果だけでなく、その過程や失敗を語ってほしい。成功譚だけではなく、困難やバランスの取り方こそ、私たちは知りたい。以前、あるファッション誌の専属モデルの方が「子どもの洋服を全部同じアイテムにしている」というような話をされていたことがあり、女友達と「洋服なんてそんなもんでいいんだよね」と語り合ったことがあります。SNSの影響もあってか、「あの人みたいにはなれない」「すごすぎて落ち込む」みたいな話が多すぎるので、ハードルを下げ合っていけるような逸話や教訓はとてもありがたいですね。いわば「引き算のロールモデル」ともいうべき存在こそ、私たち世代が求めているものな気がします。

──「引き算」が重要な時代ということなんでしょうか。

三宅:社会でバリバリ働く女性が少なかった時代に道を切り開いていらっしゃった先輩方は、本当にスーパーウーマンで、そういう方がいてくれたから自分たちの世代も今みたいに働けている。だから本当に感謝と憧れがあるんですけど、「私には無理」「そんな体力ない」と感じてしまう人も多数いるでしょう。

私は『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』のなかで「全身全霊で働く社会」から「半身(はんみ)社会へ」の移行を提言しました。これからの時代は、特定の超人だけが成功したり無理したりするよりも、誰もがもっとチャレンジしやすかったり、好きなことに時間を使えたりする社会になってほしい。

だからこそ、先輩方には、下の世代全体がもっと働きやすくなるようにハードルを下げていただく方向の発信やコミュニケーションにも期待したいんです。

私の大好きな小説に、田辺聖子さんの『姥ざかり』という本から始まるシリーズがあります。主人公の歌子さん(76歳)はすごく口が悪くて、周りの人にも辛辣。「おばあさん」という属性の人は、とかく優しくていい人に描かれがちですが、歌子さんは違います。そういう女性のあり方が、現実でもフィクションでももっとたくさんシェアされて、女性の振れ幅がどんどん拡張されていくといいな、と思います。私たちにはもっと幅や可能性があるはず。それを信じていきたいですよね。


みやけ・かほ◎1994年生まれ。京都大学大学院人間・環境学研究科博士前期課程修了。大学院在学中から文芸評論家として活動し、文学やエンタメなど幅広い分野で批評・解説を手がける。著書『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』(集英社新書)など。

インタビュー=南 麻理江(湯気)

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