サイエンス

2025.03.23 17:00

肉食がヒトの脳を「進化」させた? 類人猿の食性から分析

Ondrej Prosicky / Shutterstock

例えば、オランウータンとゴリラの年間の食生活は、推定によれば約99%が植物質で構成されている。彼らの食料のほとんどは、樹皮や成熟した葉、未熟な果実といった、質の低い(重量に対して栄養が少ない)ものだ。霊長類による、植物以外の食料の摂取は、シロアリやアリなどの昆虫を意図せず口にするという形をとることが多い。そして、こうした昆虫に含まれる微量栄養素は、霊長類にとって大いに役立っている。

大型類人猿が肉を食べることは稀だが、まったくないわけではない。例えば、チンパンジーの集団のなかには、シロアリやその他の昆虫を意図的に採食するものがある。また、一部の個体は、散発的に脊椎動物を捕食する。しかし観察記録によれば、十分な量の脊椎動物の肉を食べることができるのは、概して集団内で最も優位のチンパンジーだけのようだ。

このような食性の違いは、大型類人猿とヒトの消化管の構造の違いにも表れている。例えば、大型類人猿は概してヒトよりも下部消化管(大腸など)がずっと発達しており、これが、頑丈な植物質や不溶性食物繊維、種子といった質の低い食料の吸収を助けている。一方、ヒトは上部消化管(食道や胃など)がより発達しており、栄養が凝縮されていて消化しやすい食料に適応してきたことが示唆される。

おそらく最も興味深いのは、ゴリラやオランウータンなどほかの大型類人猿と比べると、チンパンジーの肉の摂取量がわずかながら多いことだ。このことは、これらの種の間に見られる重要な行動の違いにつながっている可能性がある。

例えば、ゴリラとオランウータンは、チンパンジーと比べると不活発で、機敏でなく、複雑な行動をあまり示さないことが知られている。ゴリラとオランウータンはまた、チンパンジーが見せるような高度な社会的相互作用を見せない。

ゴリラとオランウータンの食性はほぼ完全に植物質からなっており、またそれに適応した消化吸収プロセスをもつため、彼らが摂取できるエネルギーには限りがある。これにより、必要不可欠ではない行動の発達が抑制されている可能性がある。

言い換えれば、オランウータンとゴリラが利用できるエネルギーは、チンパンジーやヒトが示すような活発さや、高度な社会行動を支えるには不十分なのかもしれない。そして、そうした社会行動などには、肉が必要だった可能性がある。

forbes.com 原文

翻訳=的場知之/ガリレオ

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