音楽

2025.03.28 08:30

FRUITS ZIPPERを輩出 タレントが仕掛ける「新しいプロデュース」

木村ミサ|KAWAII LAB. 総合プロデューサー

「メンバーは一人ひとり、性格やタイプが異なります。彼女たちと接するなかで見えてきたものを反映することで、制作する楽曲や衣装なども方向性が変わる。それが、グループの色になる」

楽曲制作について、CANDY TUNEが4月にリリース予定の「推し・好き・しんどい」を例に挙げよう。この曲は、かわいいものを見たときに湧き上がる衝動的な感情を指す「キュートアグレッション」をテーマに「推し活応援ソング」として制作された。木村は「楽屋でメンバーが『◯◯がかわいい』『◯◯が好き』とよく会話している様子をヒントにした」と話す。

「曲のテーマや歌詞、フレーズのなかに自分とリンクしている部分があると、『こういう想いを表現した曲です』と、メンバーが心を込めて発信できる。広く響く音楽を届けるために、大切なことだと思います」

この「当事者性の付帯」は、大きなポイントだろう。メンバーそれぞれが紛れもない「自分ごと」として発信することで、ファンの深い共感を呼ぶことにつながる。

その結果、何が起きているか。ファンが自ら、好きなメンバーの魅力を知ってもらおうと動くのだ。KAWAII LAB.のライブでは、観客がスマートフォンで動画を撮影可能な曲がある。ライブ終了後には、「このパートの◯◯ちゃんがかわいい」のような投稿文を添えた動画がSNS上で溢れ、それを見てまた新しいファンが生まれている。

それぞれのグループ、楽曲を広めるために、プロデュースする側が活用するのもSNS、とりわけTikTokだ。キャッチーなフレーズや、まねして楽しみやすい振り付けなど、短尺の動画として切り取って投稿しやすいパートを曲にちりばめる。例えば「わたしの一番かわいいところ」は、「かわいい」という言葉が歌詞にいくつも登場し、アイドルを全肯定する内容になっている。アイドルファンが自分の「推し」を応援するTikTok投稿のBGMに楽曲を使用したり、インフルエンサーやK-POPアーティストが音源に合わせて踊る動画を投稿したりしていったことで、大ヒットにつながった。

また直近は、SNSにとどまらず「お茶の間の人々」への人気拡大にも力を注ぐ。CUTIE STREETは、1stシングル「かわいいだけじゃだめですか?」の配信開始後、24年10月にTikTok人気トップランキングで1位を獲得すると、同月中旬には朝の情報番組「DayDay.」に出演。その後も主要な音楽番組やバラエティ番組へ続々と出演を果たした。SNSでのバズをフックにマスメディアに働きかけつつ、それを盛り上げるコンテンツをSNSで投稿するなど、双方向で連動させる戦略的なアプローチをとった。

「ヒットの法則はわからない」と前置きしつつ、木村は最後にこう話した。

「バズはつくり手、受け手、そのときの流行など、要素が重なって生まれる化学反応みたいなもの。『自分が主体的になりすぎない』ことが大事なのかもしれませんね」

「原宿から世界へ」をコンセプトに掲げる7人組の女性アイドルグループ、FRUITS ZIPPER。「わたしの一番かわいいところ」「NEW KAWAII」「フルーツバスケット」など、数々のヒット曲をもつ。
「原宿から世界へ」をコンセプトに掲げる7人組の女性アイドルグループ、FRUITS ZIPPER。「わたしの一番かわいいところ」「NEW KAWAII」「フルーツバスケット」など、数々のヒット曲をもつ。

木村ミサ◎群馬県出身。雑誌『Zipper』のモデルやアイドルグループ「むすびズム」のメンバーとして活動後、2022年に発足したアイドルプロジェクト「KAWAII LAB.」で総合プロデューサーを務める。

文=加藤智朗 写真=平岩 享

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