マインドフルネスは「資本主義的スピリチュアリティ」?
経営学の教授で、出家した仏教教師のロナルド・パーサーは、2023年に出版した『McMindfulness』の中で、マインドフルネスは今や一種の「資本主義的スピリチュアリティ」だと指摘している。つまり、本来の、解脱し「幸せになるための仏教の瞑想」というルーツから離れ、格好のビジネス商品へとその品位を落としてしまった「ビジネス・スピリチュアリティ」だというのである。
アメリカ国内だけでも、マインドフルネスは22億米ドル(17億ポンド)の利益を生み出している。 だが、間違いなくマインドフルネス業界の重鎮たちはすでに、瞑想やマインドフルネスが抱える問題点に気づいている。
マインドフルネス運動の中心人物であるジョン・カバット=ジン氏は、2017年の『ガーディアン』紙のインタビューで、「(マインドフルネスのポジティブな影響に関する)研究の9割は粗悪なものだ」と認めている。
2015年の英国マインドフルネス全政党議会報告書の序文で、ジョン・カバット=ジン氏は、マインドフルネス瞑想は、最終的には「私たち人間一人ひとりのあり方、個人としての市民のあり方、コミュニティや社会のあり方、国家のあり方、そして人類全体のあり方」を変革する可能性を秘めている、と言及している。
このように、マインドフルネスが個人だけでなく、「人類の行く末をも変える力を持っている」というある意味宗教的な熱意は、マインドフルネスを提唱する人々の根幹に共通するものであるといえる。 マインドフルネスを実践している無神論者や無宗教者の中には、逆に(やや宗教的に)、マインドフルネスには世界の平和と他人を思いやる利他心を高めると信じるむきもある。
瞑想科学史上最も大きな投資(800万米ドル)がされた研究も
メディアのマインドフルネスの扱い方も、完全にフェアなものとはいえない。
2015年に発行された臨床心理学者キャサリン・ウィクホルムとの共著『Buddha Pill』には、瞑想の悪影響に関する研究をまとめた章がある。この本は 『ニューサイエンテイスト』誌の記事やBBCラジオのドキュメンタリーなど、メディアで広く紹介された。
その一方、2022年、瞑想科学史上最も費用がかけられた研究(研究慈善団体ウェルカム・トラストが800万米ドル以上の資金を提供)が行われ、マインドフルネスの有害的な側面を明らかにしたが、その研究に関してはほとんどメディアで報道されることはなかった。
この研究では、2016年から2018年にかけて、英国の84の学校で8000人以上の子どもたち(11歳から14歳)を対象にテストが行われた。 その結果、マインドフルネスは、マインドフルネスを実施しない対照群と比べ、子どもたちの精神衛生を改善することができなかったどころか、「やや精神状態が不安定な子どもたちには、むしろ有害な影響を与えた可能性さえある」ことが結果として示された。
