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「縦読み漫画全盛」の戦国時代、漫画家たちは闘う。『モーニング』新人賞作家の場合

漫画家・矢島光氏

漫画家・矢島光氏

スマホの漫画アプリを読む人の人口をご存じだろうか。たとえばLINEマンガの利用者数は、2022年時点で750万人あまりだ。

韓国から始まったスマートフォンでの縦スクロール・フルカラー漫画のウェブコミック「webtoon(ウェブトゥーン)」の勢いは、国家からの支援も受ける一大産業に成長し、ナンバーナイン社が手掛けるオリジナルWEBTOON『神血の救世主〜0.00000001%を引き当て最強へ〜』の月間販売金額が2024年1月度1.2億円を突破した。これは、LINEマンガにおける「国産WEBTOONランキング第1位獲得」の快挙であった。

中国のリサーチ企業「QYResearch」によれば、2021年のウェブトゥーン市場規模は約5300億円で、2028年には約3兆8500億円まで成長するというから驚きだ(※QYResearch〈2023〉「ウェブトゥーンの世界市場レポート2023-2029年」)。

漫画産業の大きな変革は今なお続いている。

集英社の「少年ジャンプ+」をはじめとして、人気紙媒体は必ずと言っていいほどネット上の媒体を持っている。昔でいう新人育成のための「増刊号」の役割を担っている部分が大きいだろう。講談社は作家が優秀な編集者を選んで作品を見せる「4時間持ち込み放題0円」の合同出張編集”者”マンガ持ち込み会 【DAYS NEO REAL 2024】 を開催する。

このような「出張編集部」はコミックマーケットを筆頭に昔からあったものの、昨今では各出版社独自で催すこともあるようだ。

逆に、有望な若手には編集者が「担当させてください」とお願いする「逆指名」制度も相変わらずの勢いだ。漫画産業において、金の卵を生む新人を争奪する動きは実にすざまじいのである。

矢島光氏の場合


だが、すべての編集者、版元が、すべての漫画家に対して最初から蝶よ花よと育てるわけではなかろう。市場の熱気とはうらはらに、消えていく漫画家たちも少なくない。では彼らはこの「空前の漫画産業隆盛」の裏で漫画家たちはどう生き続けようとしているのか? 描き続けるため、どんなふうに命を削り、闘っているのか? また、ビジネスとして漫画を商う編集者やプラットフォームはどんな新しい取り組みを試みているのか? 

矢島光氏は2011年、慶應義塾大学在学中に『モーニング』新人賞を受賞してデビューした漫画家だ。だが卒業後はIT企業大手サイバーエージェントに就職を決め、パラレルワークに突入した。これまでに世に送り出した作品は『彼女のいる彼氏』(新潮社刊)、『光のメゾン』(講談社刊)、『婚活は戦略的に。』(DPNブックス)など数多い。

矢島光氏

矢島光氏

2015年に専業漫画家へ転向するまで、会社員と漫画家を掛け持ちする日々を送っていた矢島氏だが、現在はあるメディアの経理部で働きながら漫画を描き続けている。「職場の上司をモデルにした」という新作の読み切り作品『丸勉(まるべん)』を11月、一迅社(一迅プラス comic HOWLコミックハウル)から発表した。彼女は今の漫画界をどう見ているのか。

当たれば小説より段違いに稼げる産業と聞いたことがありますが、マルチメディア展開の勢いを見るに、それは本当なのだろうとは思います

業界の熱狂の中、当の作り手である漫画家は、どう生きているのだろうか? 天才がひしめく世界で、「使い捨て」にされる状況なのでは、と邪推するところだが——。

マクロで見るとそう見える状況はあるのかもしれません。ただ、ミクロで見ると、一人一人の編集者さんは、一度関わった作家さんのことはいつも大事に思っているはずですし、チャンスやタイミングが合えば、再度タッグを組みたいと思っているのではないでしょうか。また、掲載の場が増えていることや、編集いらずの作家がSNSでマイペースに更新する作品が一大ムーブメントを巻き起こす例は枚挙にいとまがないことをふまえると、一概に作家が使い捨てされているとは思いません
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構成=石井節子 撮影=藤井さおり

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