人は感情に呑まれてしまうと、意外なほど長くその影響を引きずりがちだ。たった一度の腹立たしいやりとりや恥ずかしい体験をいつまでも頭の中で反芻し、残りの1日が台無しになってしまうことも珍しくない。
しかし実は、最初の感情反応そのものは90秒間しか続かない。それ以降の情動はすべて、感情的エンゲージメントの継続によって誘発されたものなのだ。
これは神経科学者のジル・ボルト テイラー博士が提唱している考え方だ。テイラー博士は、感情的な反応が起こると脳から神経化学物質が大量に放出され、心臓の高鳴り、筋肉の緊張、胃が沈む感じなどの生理的な感覚が生まれることを発見した。何もしなければ、この化学反応は90秒以内に自然消滅する。90秒を超えて持続する感情は、引き金となった出来事について繰り返し考えることによって維持されている。
怒り、不安、不満といった強い感情でさえ、本質的には短命だ。だが、起こったことを思い返したり、過剰に分析したり、否定的な解釈を補強してしまったりする「心の癖」により、いつまでも嫌な気持ちを引きずってしまう場合が多い。このパターンを認識すれば、感情反応のサイクルに介入して、コントロールを取り戻すことができる。
感情に支配される前に心をリセットし、視点を変えて情動のバランスを取り戻すのに役立つ3つの手順を紹介しよう。
1. 執着せずに感情を体験する
強い感情が表面化したときの自然な反応としては、「こんなふうに感じるべきじゃない」とその感情を抑制するか、「こんなの不公平だ!」などとさらにその感情を煽るかのどちらかになりやすい。しかし、どちらの反応も大本の感情を解決するどころか長引かせる傾向がある。
感情の抑圧に関する研究によれば、感情を押し込めると、後になって処理しきれなかった感情がより激しい形で再浮上し、時間が経つほど苦痛が大きくなって、自尊心や人間関係の満足度が低下する。
同様に、感情知性(EI)についての研究結果からは、感情の制御に苦労している人は心配や反芻などのネガティブな反復思考に陥りやすく、それが感情的苦痛を強め、長引かせる傾向が示唆されている。