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2025.03.05 10:15

アトツギこそ起業家精神が必要だ。伝統と革新の間で【Tech GALAレポート#4】

左からモデレーターの三星グループ代表 岩田真吾、日清鋼業 取締役副社長 濱田真帆、生方製作所 代表取締役社長 生方眞之介、プロトビ・TILE made代表 玉川幸枝

アトツギにとっての巻き込み力とは、アトツギがやりたいことを実現するために従業員や取引先などのステイクホルダーを巻き込んでいくことだと思われがちだ。しかしその手前で、自らの状況を周囲に伝え、ポジティブな影響を与えてくれそうな人を巻き込んでいくことの重要性を、玉川は自らの体験談に基づき示した。

これを受けて約200人の従業員が在籍し、今年度に連結売上高100億円突破を見込む生方製作所社長の生方眞之介は、「当社の規模ではアトツギに必要な巻き込み力として、リーダーシップよりオーナーシップの方が重要だと思います」と持論を展開。リーダーシップとは、経営者として自組織を引っ張る力。オーナーシップとは、経営者が従業員に権限を委譲し、責任は負うことだという。

生方製作所は、感震器をはじめ安全をテーマにした業務用デバイスの製造を手掛ける一方で、新規事業として消費者向け防災用品のオリジナルブランド「Pioma+(ピオマプラス)」を展開している。同ブランドをメインで担当するのは、女性従業員4人で構成された「ミネルヴァチーム」。ミネルヴァとは、ローマ神話に登場する知恵と工芸の女神のことだ。

生方は「Pioma+」の展開にあたり、経営者として関与すべきことと関与しないこと、しっかり線を引くようにしたという。例えば同ブランドの展開によって生方製作所がどのように進化していきたいのかなど、ビジョンの部分を伝え、後はチームに任せている。

「たまに彼女たちからとんでもない稟議書が上がってくると、心の中では泣いているんですけど(笑)、優秀なので『責任は自分が取るからやっていいよ』と意思を尊重しています」(生方) 

「Pioma+」はBtoCのプロダクトであるため、同社が主戦場とする業務用デバイスの事業とはビジネスモデルも業務フローも違う。さらに、新規事業は収益化に時間がかかるケースも多い。そのため生方は、ミネルヴァチームが組織で浮いてしまわないようにサポートをしている。

「全社員に年に3~4回は、『Pioma+』の事業は人の命を守るデバイスをつくる当社の新しい解釈なのだと、伝えるようにしています」(生方) 

 多様な業界で活躍するアトツギたちの本音が聞きたいと、会場には多くの観客が詰めかけた。
 多様な業界で活躍するアトツギたちの本音が聞きたいと、会場には多くの観客が詰めかけた。

巻き込み力は、受け入れ力

鋼板・鋼材加工の家業を継いだ日清鋼業 取締役副社長の濱田にとっての巻き込み力は、玉川とも生方とも異なるものだった。自らを「53歳のただのおばさん」と呼ぶ濱田は大学卒業後、3年間の保健体育科教師の職を経て、結婚・出産した。その後、教職への復職を考えていたが、創業者である実父の急逝に伴い、夫と共に家業を承継。財務や人事などのバックオフィス業務を担当していたが、コロナ禍で屋外での飲食やキャンプ需要が高まったことを機に、家業の技術を生かしたフルオーダーメイドのコンテナハウスブランド「ISOL.」を立ち上げる決心をした。

当初は、コンテナハウスについて知識も技術も持ち合わせていなかった濱田だったが、懸命に勉強してそれらを身につけ、我が子のように同事業へ愛情を注ぎ、育ててきた。すると、その様子を見たデザイナーや一級建築士らが「一緒にやらせてほしい」と声をかけてきたという。

「巻き込むつもりは、まったくなかったんです。でも擬人化できるほど『ISOL.』に熱中し、時間を忘れ取り組んでいました。そうしたら自然と自分の価値観に近い仲間が勝手に集まってきてくれて、驚きました」(濱田)

そこでモデレーターの岩田は、玉川、生方、濱田の3名に共通する力として、例えば友人からのアドバイスや社員のチャレンジ、それに伴う責任など、さまざまなことを受容する力の高さを挙げた。

「この人になら何を言っても聞いてくれる、受け入れてくれると思われることが、アトツギが周りを巻き込んでいくためには大事。受け入れ力をいかに伸ばしていくかが、ポイントになるんじゃないでしょうか」(岩田)

次ページ >  伝統を生かしつつ、いかに挑戦するか

文=真下智子 編集=大柏真佑実

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