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2025.03.03 15:15

名古屋発メガベンチャー誕生なるか。EXITのリアル【TechGALAレポート#3】

左からLEO代表 粟生万琴、GOOD AID取締役 服部雄太、ワンダープラネット取締役COO兼CFO 佐藤彰紀、スタメン代表取締役社長 大西泰平、PREVENT代表取締役 萩原悠太

続けてスタメンの大西は、テックやITなどの領域で地方からメガベンチャーが生まれていない現状を指摘。愛知県でも数々のインキュベーション施設が誕生し、スタートアップ支援の体制はできつつあるものの、その対象がシリーズA未満のスタートアップに偏っている傾向があると説明した。

そして「トヨタは愛知県から、ファーストリテイリングは山口県から生まれました。日本を代表する企業は地方から生まれている。地方からメガベンチャーを作りたい。だけど今、それを我々一社で実現するのは難しい。まずはこういう場を通して名古屋の経営者同士が本気でぶつかったり、学びを共有することが大事」と連携を訴えた。

今だから語れるEXITまでの苦悩

セッションでは質疑応答も繰り広げられた。現役大学生からの問いは「EXITまでのハードシングスは何か」。

大西は、上場のためにスタートアップが「事業を伸ばすこと」と「形式要件(※1)を満たすこと」、ふたつを同時に行う難しさを挙げた。

「当初、上場するつもりがなく、後から売り上げが拡大したことなどを背景に上場準備を始めた場合、形式要件を満たすために苦労するケースが多い印象です。一方、我々のように早いタイミングで上場を目指し、形式要件を満たす準備を進めていた場合でも、事業はお客さんがいて始めて成り立つもの。いかに鼻息荒くがんばっても、売り上げが伸びないこともある。上場を目指すスタートアップは、大抵どちらかで苦労することが多いと思います」(大西)

続いて、「資金繰り」を挙げたのが佐藤。ゲーム会社は先に開発費、マーケティング費などの先行投資が必要なビジネスモデルだ。

「10億円を投じてゲーム開発を行なった後、数億円単位で広告宣伝費が必要になります。しかも2016年当時は、立ち上げ間もないスタートアップが1社で10億円を集めるケースは珍しかった。資金調達に失敗したら、会社が立ち行かなくなる。社員がご飯を食べられなくなるかもしれないというプレッシャーは、きつかったですね」(佐藤)

さらに「私は全く外向的な方ではないんです」と語る萩原が苦しんだのが、人間関係だ。萩原には理学療法士として病院で働いた経験はあっても、一般企業での勤務経験はない。研究者気質で、もともと人よりデータと向き合うのが性に合っているという。

「人間は合理的な生き物ではないので、チームづくりやメンバー同士の摩擦、突然の退職など、それまで味わったことがなかったしんどさがありました。人のエモーショナルな部分を乗り越えていく難しさは、すごく感じています」(萩原)

服部は、事業にまつわる「ヒト、モノ、カネ」すべてが大変だったと振り返った。まずモノの部分では、規制強化の動きを受けて零売事業をシュリンクさせた。ヒトについては、そうしたなかボードメンバーがExit前後の1年間で全員退職。さらにカネの部分では、M&Aによる店舗数拡大で事業を成長させてきたため、のれん代(※2)が膨らんでいたが、冷媒事業の縮小によって減損処理が必要となり、債務超過に陥ったという。

「これを乗り切った秘訣は、睡眠です。ハードなことが起きても、寝れば少しは切り替えられる。体力とメンタルの強さは、起業家や経営者に絶対必要な資質です」(服部)

最後に、超満員の会場からステージへと惜しみない拍手が贈られた。

EXITはその名の通り、出口(ゴール)でありスタートでもある。EXITを実現した4人の若き実業家がさらなる成長を続け、飛躍を遂げられるか。それは名古屋、そして東海地区の産官学が叡智を結集し、一体となって彼らを支え続けられるかにかかっている。

※1 企業が株式上場を申請する際に必要とされる条件のこと。 株主の数や株式の流通量、企業の時価総額などの項目がある。

※2 企業がM&A(買収)を行う際に、買収価格が被買収企業の純資産を上回った場合の超過分を指す。のれん代の主な構成要素としては、数字上では表せない事業価値やブランド力、技術、顧客、人材、企業文化などがある。

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文=真下智子 編集=大柏真佑実

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