「当社はヘルスケアの会社なので、上場して一発当てるというより、ミッション・ビジョンに共感して入社してくれる社員が多い。経営基盤の安定した大手企業がバックにつくことで、社員には『引き続き今の事業に全力で向かっていける』という前向きな気持ちの変化が起きていると思います」
また、両社ではEXITを経て応募してくる人材が変わってきたという。PREVENTではグループイン前、ゼロイチの状態から事業をつくっていきたいというベンチャー志向をもつ人材が目立っていたが、グループイン後には既存事業をスケールさせたいという人材からの応募が増えた。
GOOD AIDでは、グループイン前はミッション・ビジョンで定めた薬剤師像があり、それを追求したいという人材からの応募が主だった。しかしグループイン後には、やりがいよりも待遇や労働環境の安定性を重視する人材の割合が高まったという。
それを受けてモデレーターの粟生は、M&AによるEXITには経済面など数々のメリットがあるとした上で、「ベンチャー側がチャレンジ精神などを失わないように、いかに上手く企業文化の融合をはじめとしたPMI(M&A後の経営統合作業)を進めていくかがポイントになるでしょう」と指摘した。
一方で、EXITより応募人材の層や質を大きく左右する要因があると、スタメン代表取締役社長の大西は主張する。
「企業としてモメンタム(勢い)をつくれている状況にあるか、それがどの段階にあるかだと思います。当社では今、いい採用環境をつくれていますが、IPOできたことが主な理由ではなく、企業として創業以来一番いいモメンタムをつくれているからです。IPOした場合でも、企業としてモメンタムの峠を越えてしまい、未上場のときの方が魅力的な人材を採用できていたというケースはよくあります」

EXIT後の未来戦略。地方発メガベンチャー誕生のために
ここからテーマは、4人が「EXITを経て未来をどう描くか」へと移っていく。規制強化により、注力してきた零売事業が原則禁止となる流れにあるGOOD AIDの服部は、変化に適応するために前を向く。
「零売事業はひとつの節目を迎えましたが、挑戦してきたことは無駄ではありません。この1年で、零売に代わるセルフメディケーションをファーマライズグループとして探し求めてきました。今後、ゆりかごから墓場まで地域に健康をお届けできるようなヘルスケアカンパニーに進化していくことを打ち出しており、やるべきことは明確になっています」(服部)
ワンダープラネットの佐藤は、「IPOを目指す過程で、パブリックカンパニーになるために企業として社会に何を求められているかを自問自答していた」と説明。今後は、ゲーム会社として外貨を稼ぐこと、そして名古屋を中心とした地域の雇用を創出していくことを念頭に起きながら、さらなるグルーバル展開の準備を進めているという。
粟生はそんな佐藤に「海外に挑戦し、確固たる地位を築いた日本の大手ゲーム会社が存在する一方で、数々のゲーム系ベンチャーが失敗して国内に帰ってきた過去があります。そうしたなか、ワンダープラネットさんが名古屋から世界に挑戦し続けているのは大きな誇りです。みんなで応援していきたい」とエールを送った。
PREVENTの萩原は、自社のプロダクト・サービスをより多くの人に届けるため、EXITの方法を途中で上場からM&Aに切り替えた。信頼が求められるヘルスケアの領域で、スタートアップ1社で戦うより、大手保険会社にグループインすることが近道だと考えたためだ。
「住友生命グループには4万人を超える従業員がいて、全国各地に営業所があります。しかも保険は安定性が高い究極のサブスクビジネスでもある。この巨大なプラットフォームに、我々のサービス・プロダクトを上手く載せていきたい。そうすれば社会に実装され、世の中に浸透していくでしょう」(萩原)