現在約100人の従業員を抱える同社は、月額12ドルで利用可能なプリペイドカードを約15万人の顧客向けに提供している。
True Link Financialはまた、米証券取引委員会(SEC)に登録済みの投資アドバイザーとしての事業も運営しており、運用総額が約15億ドル(約2240億円)の資産運用サービスを提供している。
高齢の祖母を支援するために起業
同社の共同創業者でCEOのスティンチコムが起業を思い立ったのは、祖母がアルツハイマー病を発症したのがきっかけだった。元教師の祖母は年金暮らしだったが、毎月3〜4つの団体に少額を寄付していた。しかし、記憶力の衰えによって、詐欺めいた慈善団体の勧誘に無防備になり、クレジットカードを用いて何度も同じ団体に寄付をするようになった。さらに、ショッピングモールの勧誘に騙されて6000ドル(約89万円)の補聴器を買わされたこともあったという。
スティンチコムは、祖母の銀行に電話をかけて助けを求めたが、その銀行は杓子定規な答を返すのみだった。「当行としては、顧客が精神的に健常であれば、自分で承認した取引の責任を負うべきだと考えるし、そうでない場合は、口座を閉鎖するしかない」と言われたという。
そこで彼は、家族のニーズに合うサービスを提供するカード発行会社を探したが、そんなサービスは存在しなかった。「私はその時、祖母のような人向けのサービスが存在すべきだという考えに取り憑かれたのでした」とスティンチコムは振り返る。その後、後に共同創業者となるクレア・マクドネルにこの問題について話したところ、彼女もまた、認知症を発症した祖母の介護で同じ悩みを抱えていることが分かったという。二人は2013年夏にYコンビネータのインキュベーター・プログラムに参加し、その年のうちにカードをローンチした。
彼らがベンチャーキャピタル(VC)に事業計画を持ち込んだ際、投資家の多くは、このビジネスが収益化できるとは思わなかったが、それでも一部の著名な支援者が現れた。True Link Financialは、2015年のシードラウンドで500万ドル(約7億5000万円)の資金を、Yコンビネータの現CEOであるギャリー・タンと、レディット共同創業者のアレクシス・オハニアンから調達した。
同社は、その数年後に倒産の危機に瀕したが、コスト削減を徹底することでなんとか乗り切った。そして2017年には、デビットカード事業がキャッシュフローを黒字にした。
そのタイミングで現在はTrue Link Financialの取締役を務める、QED共同創業者のフランク・ロートマンが800万ドル(約12億円)の資金調達を主導した。彼はその当時、True Link Financialがターゲットとする市場の規模にはそれほどこだわっていなかったという。「アーリーステージの投資家が重視するのは、市場の大きさよりも、その企業が解決すべき明確な問題を対象としているかどうかだ」と彼は説明する。