最終的にシエは、シリコンバレーにあるマイクロソフトリサーチの研究所に所属することにした。そこはテクノロジーのブレークスルーを生み出す場所で、同僚には複数のチューリング賞受賞者が居る「世界最高の環境だった」と彼女は振り返る。
それから3週間後、カリフォルニア大学バークレー校で博士号を取得したばかりのファン・ユーが同じ研究所にやって来た。彼女もシエと同じ中国の出身で、セキュリティをテーマにした博士論文を書いたのだった。2人はすぐに意気投合して、研究でも協力し合うようになった。
そして今、48歳のシエと46歳のユーは、11年間の苦闘を経て、2013年に共同創業したDataVisor(データバイザー)の経営をついに軌道に乗せた。カリフォルニア州マウンテンビューを拠点とする同社は、金融機関とその顧客を詐欺から守るセキュリティ企業だ。シエがCEOを、ユーが最高製品責任者(CPO)を務める同社の2024年における売上高は、前年比67%増の5000万ドル(約75億円)に達した。
DataVisorは、フォーブスが2月18日に発表した米国で最も革新的なフィンテック企業を選ぶ年次リストの『フォーブス・フィンテック50』に初めて選ばれた。同社の顧客にはSoFi(ソーファイ)やAffirm(アファーム)、Marqeta(マルケタ)などの金融関連の大手が含まれる。
現代の銀行やフィンテック企業は、詐欺グループと戦うために、複数のセキュリティツールや外部のベンダーを活用しているが、DataVisorの強みは、大きな損害が発生する前に、詐欺集団の侵入を検知することだ。これらのグループは、ユーザーアカウントを大量に乗っ取ったり、信用情報機関のデータ漏洩を悪用して不正なローン申請を行ったり、偽の商品を販売してユーザーを騙したりする手口を常に進化させている。
セキュリティ企業は、新たな詐欺が発覚すると、それに対応するための検出モデルを更新するが、すでに被害を受けたユーザーを救うことはできない。
「一般的な機械学習は、過去のデータを用いて学習し、精度を高めているため、常に後手に回ることになります。このようなAIモデルが攻撃パターンを学習する頃には、詐欺グループはすでに手口を変えているのです」と、シエは語る。