mRNAをベースとするがんワクチンが、膵臓がん患者を対象とした小規模治験で印象的な成果を上げ、手術後の再発リスクを低減する長期的な免疫反応を誘導(刺激)できる可能性を示唆している。
mRNAワクチン「autogene cevumeran」を用いた
第1相臨床試験の新たな結果が、学術誌Natureに
掲載された。それによると、免疫チェックポイント阻害薬と呼ばれる別の免疫療法と組み合わせることで、腫瘍に存在するタンパク質に対する免疫反応が誘導された。治験参加者の血中では、治療後最長4年経過してもこうした免疫細胞が確認され、mRNAワクチン自体の体内での寿命は短いにもかかわらず、ワクチンによって誘導された抗腫瘍免疫細胞が長期にわたって維持される可能性を示している。
「第1相試験による最新データは有望です」と語るのは、本試験の主任研究者であり、ニューヨークのMemorial Sloan Kettering Cancer Centerに所属する外科医で科学者のヴィノッド・バラチャンドラン医師。バラチャンドラン医師は「これらのデータは、この治験用mRNAワクチンが膵臓がんを異物として認識する可能性のある抗腫瘍T細胞を動員できることを示唆していて、ワクチン接種から数年が経過してもその効果が続く可能性があるのです」と述べている。
一般的に、感染症(たとえば新型コロナウイルスや麻疹)のワクチンは予防目的で事前に投与される。一方、がんワクチンはすでにがんを患う患者に投与し、免疫系が腫瘍を攻撃するよう促す点で異なる。
COVID-19向けのmRNAワクチンにもウイルス変異株ごとに異なる製剤が存在するように、今回の試験で使用されたmRNAワクチンも各患者の腫瘍に特有のタンパク質(ネオアンチゲン)を標的とするよう個別設計されている。研究者らは遺伝子配列情報を用いて、各患者の腫瘍に特異的に存在するネオアンチゲンに対して免疫応答を誘導するmRNAワクチンを開発した。
先行報告によれば、大きな副作用は確認されず、参加者のおよそ半数に明確な免疫反応が見られたという。