養鶏農家と政府当局の双方にとっては、そもそもウイルスがどうやって家禽農場に侵入するのかが重要な問題だ。野鳥と家禽との直接接触、飼料や水の汚染、出入りする人間の衣服や手にした器具の汚染など、いくつかの感染経路があることがすでにわかっており、多くの農場では感染リスクを最小限に抑えるためのバイオセキュリティー対策がとられている。
今月、風媒感染という見過ごされがちなメカニズムに光を当てる新たな研究結果が発表された。文字どおり風に運ばれたウイルスが感染を引き起こすというものだ。この研究論文では、H5N1型ウイルスが風に乗ってかなりの距離を移動した可能性について、遺伝学的・気象学的に説得力のある証拠を提示した上で、これまでの常識に疑問を投げかけ、アウトブレイク(集団感染)発生に備えた緩和戦略を再考する必要性を強調している。
遺伝学的証拠が示す疫学的関連性
この研究は、2024年2月にチェコで起きたH5N1型のアウトブレイクを受けて行われた。最初に感染が確認されたアヒル農場から、8km離れた2つの養鶏場にウイルスがどのように伝播したかを調査している。遺伝子配列解析の結果、3つの家禽農場で検出されたウイルス株には顕著な類似性があることが判明した。アヒル農場で分離されたウイルス株のうち複数は、養鶏場で見つかったものと100%一致した。重要な点は、大規模な現地調査によっていくつかの感染経路が除外されたことだ。アヒル農場と養鶏場をそれぞれ管理する企業の間に直接の交流はなく、飼料や水源の汚染も確認できなかった。野鳥を媒介して感染が広がる原因となりうる水場も近くになかった。人為的な感染や、ネズミを媒介した感染の可能性も否定された。これらの調査結果を踏まえると、ウイルスが農場間を移動した方法として最も妥当な説明となるのは、風だった。