気象条件と風によるウイルスの拡散
気象データは、風媒感染の仮説にさらなる裏付けを与えるものであった。2月4日から7日にかけて一貫して西~南西の風が吹いており、その風向きは疑わしい感染経路と一致していた。風速は平均4m前後で、5日には8~10mの強風となった。研究によれば、空気感染による感染拡大に最適な気象条件が生じたのは4日正午~5日午前0時だった。この間、ウイルスはアヒル農場から養鶏場までの距離をわずか13~22分で移動した可能性がある。空気感染、それも8km以上も離れた地点間での空気感染は通常、H5N1型の主要な感染経路とは考えられていない。しかし、この研究はその仮定に疑義を投げかけている。

トンネル換気システムの影響
この研究から得られた最も重要な知見の一つが、風を媒介とした感染拡大にトンネル換気システムが関与していた可能性だ。この手の換気システムは大容量のエアーサンプラーのように機能し、鶏舎内に負圧を発生させ、外気を大量に吸い込む。その際、空気中に微粒子(この場合はH5N1型の感染性ウイルス粒子)が含まれていれば、それを効率よく濃縮してしまうのだ。感染が起きていた期間中、被害を受けた養鶏場の換気率は非常に高かった。こうした条件が重なって空気中のウイルス粒子が鶏舎内に蓄積され、感染量に達したと考えられる。注目すべきは、被害を受けた養鶏場でのアウトブレイクが、鶏舎の給気口付近にいた鳥たちから始まっていたことだ。研究チームは、2つの養鶏場のうち飼育している個体数が最も多く、換気率が最も高かった鶏舎に、アヒル農場から風に乗って運ばれたウイルスが伝播した可能性が高いとみている。