がんワクチンは、新型コロナウイルスやはしかなどの感染症に対するワクチンとは異なる働きをする。感染症ワクチンは、ウイルスや細菌、その他の微生物による発症や重症化を予防する目的で接種される。一方、がんワクチンはすでにがんを患っている患者に投与し、免疫系が腫瘍を攻撃するよう促す治療法だ。
他の種類の腫瘍に対して有望な結果を示すがんワクチンはいくつか報告されていたが、治療が難しく再発率が高い腎臓がんにおいて、今回のような顕著な結果が得られたのは初の重要な事例の1つだ。
Dana-Farber Cancer Instituteの治験では、全患者が腫瘍の大部分を切除する手術を受けた。手術で切除した腫瘍を研究所で解析し、ネオアンチゲン(neoantigens)と呼ばれる免疫系を刺激する腫瘍特有の特徴にもとづいて、患者ごとに個別化したワクチンを開発した。その後、患者にワクチンを投与し、手術後に残っている可能性のある腫瘍細胞を免疫系が攻撃するよう誘導した。
論文の第一著者であるデイビッド・A・ブラウン医学博士はプレスリリースで次のように述べている。「このアプローチは、腎臓がんにおける従来のワクチン試みとはまったく異なります。私たちは、がん特有で正常な組織とは異なる標的を選び、免疫系を非常に特異的な方法でがんに向けることができました。どの特定の標的が免疫攻撃を受けやすいかを学び、このアプローチが長期間続く免疫反応を引き起こし、免疫系にがんを認識させることが可能であることを示しました」
今回の臨床試験は対象患者が9人と少数であるため、結果の解釈には慎重さが必要だ。しかし、進行期の腎臓がんでは腫瘍の再発リスクが高いにもかかわらず、試験参加者全員が治療後3年たった今もがんのない状態を保っていることは有望な兆候だ。
標準的な化学療法は投与期間中のみ効果を示す場合が多いが、がんワクチンのような免疫療法は免疫系が腫瘍細胞を認識し続けるよう訓練するため、再発リスクを最小限に抑えられる可能性がある。免疫系ががんを記憶し、再び増殖し始めた段階でただちに攻撃できるよう備えられるからだ。
また、がん治療には短期・長期の副作用が多くみられるが、この試験では重篤な副作用は報告されなかったという点も好ましい兆候だ。
「私たちは、この研究が腎臓がんにおけるネオアンチゲンワクチン開発の基盤になると考えています」とブラウン博士は述べている。
(forbes.com 原文)