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イタリアとドイツの日本人女性から学ぶ、「文化の見せ方」の匙加減

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「日本文化」が言及されるケースが国内外で多くなりました。インバウンドは上げ潮にのっています。石破茂首相も2033年までにコンテンツ産業の輸出を現在の5兆円から20兆円に伸ばしたい、と年初の施政方針演説で述べています。

日本の文化に関心をもつ外国人が増え、文化交流が促進されるのは大いに結構なことです。オーバーツーリズム対策を並行して考慮する必要はありますが、この動きに異議を唱える理由は、まず見当たりません。

他方、「日本文化を!」と語る人たちを眺めながら、ぼく自身は一つのことがどうも気になります。主語のあまりの大きさに居心地が悪い、と。

およそ文化とは輪郭が不明確な性格をもつもので、努めて輪郭をはっきりさせたいと思うぼくも全体像が伝わることに拘ります。しかし、何か対象に絞ってアプローチしないと見えるものも見えてきません。長い間ぼくは、この現実に何度もぶちあたってきました。1人の外国人に相対したときに、1人の日本人として意識することと、個々に具体的に何をすると良いかには「ずれ」があるものです。

ミラノの日本人女性の場合

一人の女性を紹介しましょう。

移川みどりさんはミラノでフェイスマッサージを営んでいます。予約は常に1カ月先まで埋まっているほどに人気があり、スイスにも顧客がいます。彼女はシンガポール航空のCAで世界を飛び回っているうちにイタリアファッションに惚れ込み、ミラノに移住。そして20年以上、高級ファッション企業で仕事をしてきました。それが数年前、フェイスマッサージへと大きく舵をきったのです。

移川さんは実家が温泉地でホテルを経営していたため、幼少の頃からマッサージ師の施術を見よう見まねで習い、親の身体をほぐすのが日常生活の一部でした。いや、日本の家庭において親の肩を揉むというのは珍しくない「親孝行」です。彼女の場合はそのような文化の実践者として上級クラスだったのでしょう。

彼女が普通の人と違ったのは、大人になっても美と健康に関心が強く、ストレッチ運動とセルフマッサージを毎日欠かさず継続してきたことです。日本に行ったときは、マッサージの講習に趣味として参加していました。仕事として考えたことは一度もありません。
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文=安西洋之(前半)・前澤知美(後半)

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