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イタリアとドイツの日本人女性から学ぶ、「文化の見せ方」の匙加減

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このテーマを考えたときに、まず思い浮かんだのはドイツ・ベルリンでKintsugi Berlinを営む豊田智子さんです。

彼女との出会いは、私がドイツに住んでいた頃に陶器の金継ぎを依頼したのがきっかけです。それ以降ソーシャルメディア上で彼女の活動を追っていたのですが、安西さんの指摘する「日本文化の見せ方」が絶妙で、ずっと気になっていました。

豊田智子さん

豊田智子さん(Photo: Florian Reischauer)

まず、豊田さんが金継ぎに至るまでの道のりがユニークです。京都で現代美術を学び、その後ヨーロッパでの交換留学を機に、南ドイツ・シュトゥットガルトの大学へ進学。ビデオアートやパフォーマンスアートを専門とするアーティストに師事しながら、人の痕跡が感じられるものや空間に強い関心を抱くようになります。やがて、自らの創作活動の必要性を問うようになり、同大学の修復学科へ転科。

修復学科では壁画の修復を専攻し、在学中にはヨーロッパ各地のみならず、ガーナやエジプトなど異なる環境で修復経験を積みました。そんななか、同学科で考古学を専攻していた友人から「金継ぎを研究しているので、漆の調達を手伝ってほしい」と頼まれたことをきっかけに金継ぎを学び始めました。

「日本にいたら独学でやろうとは思わなかったでしょう。職人のもとできちんと修行しようとしたと思います。ドイツで始めたからこそ、修復学で得た知識と、日本語で専門資料を読むことができるアドバンテージを活かして、独自に実践する道を選んだのだと思います」

金継ぎをビジネスに

卒業後はベルリンに移り、修復を専門とする事務所に就職。しかしコロナ禍で解雇に。フリーの修復士として活動し始めますが、壁画修復はフィールドワークを主とするため、コロナ禍ではリモートでもできる仕事を模索する必要がありました。それがKintsugi Berlinの始まりでした。

「金継ぎを工芸ではなく『日常的な修理』として伝えたい」という豊田さんの思いを反映するように、Kintsugi Berlinのウェブサイトでは、「何センチの修理でいくらかかるか」のような実用的な情報に多くのスペースが割かれています。

Photo: Elena Capra

Photo: Elena Capra

それでも当初は、工芸品や骨董品の修理依頼が多くなると予想していましたが、実際には思い入れのある個人的な品物が寄せられることがほとんど。漆は高熱に耐えられないので、食洗機を使用したり、沸騰したての熱湯を注いだりすることはできません。日常使いはしないけど、棚にずっと飾るようなものではない。特別な時間に手に取り、想いを馳せるような品物を扱うことが多いそうです。

Kintsugi Berlinのインスタを見ると、人形や鐘など、あらゆるものの修復を彼女に依頼していることがわかります。これまで、石や表札の修復を依頼されたこともあるそうです。

私自身が依頼したのは、祖父が作った陶器の醤油差しと、主人が作った陶器のコーヒーカップでした。金継ぎ仕上げ、銀継ぎ仕上げ、漆のみが選べたのですが、仕上がりが想像できなかった私は、豊田さんに実物を見てお勧めしてほしいとお願いしました。しかし通常、仕上げを彼女から提案するケースは稀だと言います。
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文=安西洋之(前半)・前澤知美(後半)

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