この記事では「修理」にハマることが、自分の人生とこれからの地球にとってとても有効だということを、筆者が八ヶ岳のフィールドリサーチから得た学びとして共有したい。
今回訪ねたのは、日本の風土に合わせた暮らしを20年以上実践してきた、パーマカルチャーデザイナーの四井真治さん(ソイルデザイン代表)が暮らす自宅だ。

パーマカルチャーとは、パーマネント(永続性)、農業(アグリカルチャー)、文化(カルチャー)を組み合わせた造語。永続可能な循環型の農業をもとに、人と自然がともに豊かになるような関係性を築いていくためのデザイン手法である。このパーマカルチャーの実践家として多くの成果を残し、著書『地球再生型生活記 土を作り、いのちを巡らす、パーマカルチャーライフデザイン』(2023年)も話題となった四井さんだが、今回の訪問の中では「パーマカルチャー」の話題が出る頻度は低く、「暮らし」というワードが多く飛び交った。
パーマカルチャーはあくまで手段で、「暮らし」が目的ということだろう。理論や原則を最も早いサイクルで試して改善していけるのが暮らしであり、「生活実験」こそ人生を楽しみ尽くすキーワードなのだ。(パーマカルチャーライフデザインの原理については、四井さんの著書『地球再生型生活記』をぜひ読んでみてほしい)。
自然の欠落をつなぐ道具
四井さんの自宅の周囲に広がる実験的な農地を観察していると、自然の欠落を補う道具の数々が目に飛び込んでくる。生活排水を濾過し、その通り道が肥沃な土壌になる「バイオジオフィルター」にはじまり、落葉や雑草を重ねてためておくことで土を生み出せる「エコスタック」、生態系を豊かにしてくれる多様な虫が集まる「バグホテル」など、様々な工夫が自作されていた。(自然の循環に関するノウハウは、前述の『地球再生型生活記』を参照してもらいたい)。

この光景を目にして、筆者はこれまで自分がもっていたバイアスに気づく。豊かな自然とはすなわち「非人工物の集合」というイメージを持っていたが、自然にも欠落が生じるし、その土地にとってベストな状態に回復するには膨大な時間がかかったり、時に復旧できないこともあり得る。その欠落を人間がつくった道具でつないでいくことで、”より早く”良い方向に変化していくことができるということを知った。人工物も風土を豊かに保つための自然の一部になり得るのだ。環境保全が”待ったなし”の現状において、「早い」というのはとても重要な効果だ。
しかし自然は、風土や環境の変化によるバラツキが大きいため、その土地にあわせた工夫が求められる。だからこそ自然の原理を理解しているだけでなく、道具を生み出せる人間がこれからの時代を救う鍵になる。でもそんな人はとても稀有だし、自分にいたってはシャツのボタンをリペアするのが限界だ。