新たなデザインの潮流を生み出す場として、かつて2005年から2012年まで開催されてきたDESIGNTIDE TOKYOは、今回12年ぶりに復活しました。商業性よりもデザイナー自身のビジョンやクリエイティビティを反映した作品を発表するという従来の意向はそのままに、2024年版はプロダクトデザインの枠にとらわれないキュレーションやプログラムが特徴的でした。
初めてDESIGNTIDEを訪れた私にとっては、国外のデザインウィークに比べ、より若さや「遊び心」が強調された新鮮さがありました。
その点を事務局に尋ねると、「実験的な実践を自由に発表できるオープンな場が革新的なデザインを生むと考えている」という答えが返ってきました。また今回は、「Beyond Vulnerability(脆弱性を超えて)」というテーマを設定し、出展者たちと語り合ったといいます。
「プロダクトデザインにおいて、脆弱性という言葉はネガティブに捉えられがちです。発表する際にリスクを伴う状態でもあります。しかし、その裏には純度が高く壊れやすい美しさがあり、それこそが社会を変える力を持つのではないかと感じ、このテーマを選びました」(事務局)
この脆弱性は、偶然にも、「傷つく可能性を受け入れる価値」について触れた前回の記事「『会うべき人』がいることは、ラグジュアリーかもしれない」とも共鳴する部分があります。
3人のデザイナーと作品から感じたこと
今回は特に気になった3人の出展者に話を聞きました。
会場に入ってまず目を引いたのは、砂浜をそのまま掬い上げて作られたような穏やな色調と表情が美しい器のコレクションでした。オランダのヘリット・リートフェルト・アカデミーでコンテンポラリージュエリーを学んだ本多沙映さんが手がけた「Rebuilding Ocean Hue(海の色彩の再構築)」は、海藻が減少する「磯焼け」の原因の一つである食用価値のないウニの殻を釉薬に使用した作品です。
これまで自然物と人工物の境界線や既存の価値体系を問い直す作品を発表してきた本多さんは、「価値がないとされる素材の周囲にある情報や記憶を拾い、新しい価値を見つけ出すことに豊かさを感じます」と語ります。