お金の返済をたったひとりでやり遂げたことが知られると、仲間たちも戻ってきた。そのとき協力してくれた人々が、現在のリートンの中心メンバーとなっている。
パンデミック後、イ・セヨンはKSCYをオンラインで開くことに決めた。参加者数は元々、会場のキャパシティによって限られていたが、オンラインになったことで世界の誰もが参加できる大会となった。22年1月に14日間にわたり開かれた初のオンライン大会には、世界15カ国から5000人以上が参加し、大成功を収めた。
だが、数千人もの参加者が提出した論文は、高校時代に開発した検索技術ではまかないきれない量となった。イ・セヨンは、この新たな課題を解決する新しい技術的ツールが必要だと直感した。
「20年にGPT-3のベータテストに参加したときに開発したものに、学術大会に参加している学生のための作文ツールがありました。リートンというサービス名もそのときにつけたんです。これを22年初めのオンライン大会で参加者に無料で提供したところ、大きな手応えを感じました。これはネイバーやカカオのような『国民的サービス』になりうると確信しました」(イ)
学術大会でのテストは、すぐに次のステップへとつながった。イ・セヨンが注目したのは、コピーライティングサービスだ。履歴書、報道資料、広告コピー、ウェブサイトの中身、フェイスブックやブログの投稿文、職務経歴書など、仕事や日常で使われる文章を収集。そうしてできた対話型AIは、簡単なキーワードを入力するだけで文章の草案をつくりだす。22年10月に公開された「リートンコピーライティング」サービスだ。「1万字で1万ウォン、10万字で10万ウォン」という有料サービスだったが、発表から1週間で加入者は1万人を突破し、爆発的な反響を巻き起こした。予想を超える反応を確認したイ・セヨンは、誰も考え及ばなかった次のカードを出した。サービスの全面無料化である。

アジアを代表するスーパーアプリに
「有料サービスでありえないような値段をつけたのは、ユーザーの反応を確かめるためだったんです。最初の1カ月の成果を見て全面無料化を決定しました」(イ)世界初の無料生成AIサービスの開始。その決断が正しかったことはデータが証明した。23年1月の全面無料化後7カ月で、サービスへの累積加入者数は100万人を超え、1年半が過ぎた24年8月時点では400万人を超えた。
「生成型・対話型AIは、メッセンジャーやEメールのように誰もが使うサービスになるでしょう。ネイバーやグーグルがPCのホーム画面であるように、カカオトークやLINEが誰でも使うメッセンジャーであるように、人とAIの“最初の対話”はリートンからだと刻みたかったんです」(イ)