テクノロジーの進化によって、私たちの社会からエラーが減っていき、それゆえ人は、間違えたり傷ついたりすることをより恐れるようになっている。しかし、本来「傷」は、何かを生み出す衝動のひとつとなり得るものであるはずだ。
2024年秋、「思考をトレードする場」を掲げて開催されたデザインイベント「DESIGNTIDE TOKYO 2024」の会場で、「誤謬なき世界に『傷』がもたらす美しさ」をテーマにしたトークが開催された。
登壇者は、クリエイティブスタジオWOW代表の高橋裕士、AI時代の教育について記した『冒険の書』(日経BP)の著者でもある投資家・起業家の孫 泰藏、ログズ代表取締役でDESIGNTIDE TOKYO主催者の一人である武田悠太。AIと共存するこの先の世界で、創造や価値基準はどのように変わっていくのだろうか。
高橋:昨今、あらゆるところでAIについて語られています。私が昨年6月に参加したアップル社の開発者会議「WWDC」では、アップルインテリジェンスという人工知能プラットフォームが発表され、その紹介として、AIの提示するルートによって父親が娘の発表会に向かう1シーンが流れました。
ただ、私はその映像に違和感も覚えました。発表会の場所を間違える、おっちょこちょいな父親がいてもいいのではないかと。
泰蔵さんは最新テクノロジーに触れることも多いかと思いますが、テクノロジーによって変わるべきことと変わらなくてもよいものを感じることはありますか。

孫:アップルインテリジェンスのほかに、オープンAIも昨秋に「オープンAI o1(オーワン)」という新モデルを発表しましたね。オーワンは自ら論理的思考を3分ほど続けることができます。たった3分だと思われるかも知れませんが、人工知能の3分はすさまじく、東大医学部の入試試験にも合格できるほどです。
武田:たった3分でですか?
孫:日本にコンビニがいくつあるかといった問いに使われるフェルミ推定も、オーワンは数秒で終わらせることができます。また今は3分間ですが、数年以内には3日ほどまで論理的思考を続けられるようになると言われています。複雑な問題ですらAIが瞬時に答えを出してくれるとなれば、もはや学校で教えていることは意味がないとも言えます。
私は子供の頃、父親から「学校の先生の言うことを聞くなよ。あいつらは嘘を言うぞ」と教えられていましたが、ある意味で父親が話していた世界が現実になりつつあると感じました。先生たちが嘘をついていたわけではありませんが、学校で教えられることは意味をもたなくなってきていると。
これまでであれば、正しい情報をインプットして記憶し、それを正しく応用できることが賢さの定義だったと思います。ところが、AIが人間をはるかに上回る賢さをもつのであれば、論理的思考ももはや人間のすべきことではなくなってしまいます。
武田:なるほど。