孫:AIも今のところは従業員のパフォーマンス評価などに活用されるでしょうが、より進化が進むと、仕事全体がAIによって行われるはず。ただ、100%AIだけの企業は成り立たないため、人間は「こんなことをやったら面白いんじゃないか」と考えるために会社に集まるわけです。そこで人間に必要とされるのは効率性ではないため、評価も必要ないのではないかと。
高橋:現在はその過渡期にあたるわけですね。
武田:僕はホテルと経営しているのですが、収益を上げるには、宿泊予約サイト内の表示ランキングを上げることが一番手っ取り早い手段になります。
ただ、それらのランキングは、予約数や口コミ点数等を総合的にAIが評価して作られているわけすが、接客にやりがいを感じて働いてくれているスタッフたちが、いつの間にか、AIに気に入られるために右往左往している状態です。
孫:やはり、AIに対してはAIをあてるべきなんです。
武田:すでに世界はディストピアだと思いましたが、よりAIが進化すると、ディストピアを超えることができそうです。

孫:そうですね。ただ、それは発展段階によるものではなく、使い方の問題でしょう。今はディストピアに一直線に向かっていくAIの活用法が多いですが、既存のAIでも使い方のセンス次第で大きな変化を生み出せるはず。私自身は最近、“ミニ泰蔵”というAIをつくっています。
武田:欲しいですね。泰蔵さんが言うであろうことを学習させたんですか。
孫:これまでに話したことや書いてきたことを学ばせて、そうしたらだんだん自分が言いそうなことを答えるようになってきましたね。私しか知り得ない例え話をしはじめたり、ときには本人よりうまく答えたりするので、ビックリします。
驚くと同時に、私自身が「もうちゃんとする必要はなくなる」という妙な解放感も訪れました。私はよく起業家からアドバイスを求められますが、人間なので発言にブレることもあります。その点、“ミニ泰蔵”は24時間365日ブレがない。相手にとことん付き合うこともできるので、私自身より優れていると感じます。もはや分身のAIがいることで、自分自身はちゃんとしなくていいわけです。
武田:“ミニ泰蔵”が自分の分もちゃんとしてくれますからね。
孫:そうなると、自分自身としては支離滅裂でも一貫性がなくてもいいわけですから、これからの人生がとんでもなく楽しくなるなと。
高橋:自分の余白を作れそうだと。
孫:AIによって誤謬なき世界が実現する一方で、解放された人間によるハチャメチャな楽しい世界も生まれるんではないかと、最近は考えたりします。