
例えば、今回の作品も、ウニの殻と海辺の素材が織りなす表情に美しさを感じる一方で、ウニという素材の特性が外観からは見えづらい。それでも作品の詩的なカラーパレットが、私にウニの記憶やこの問題に関わる人々を詩的に想起させたことは確かでした。

次にお話を伺ったのは、遊び心ある展示方法で際立っていた「Soft Bricolage」を制作したOTHER DESIGN代表の西田悠真さんです。Bricolage(ブリコラージュ)とはフランス語で「ありあわせの道具や材料を用いて自分の手でモノをつくること」を意味する言葉です。
くすんだ色味のマーブル模様と幾何学的なフォルムが印象的な作品の背景には、再利用できない廃棄ゲルがひと月100リットル出るというソフトビニール人形製造の実態があります。ドライヤーやハサミなど身の回りにある道具を使って簡単に加工できるというこの人形の特性からヒントを得て、ユーザー自身が形を変えられるデザインになっています。
西田さんは、キャリアの初期にディストリビューターとして働いていた時から、「長く愛され、長く使われるデザインとは何か」を模索してきました。「『良い』とされているデザインでもそれを販売する人に伝わらない、使う人に愛されないという場面を見てきました。デザインの外側にいた人間だからこそ、コミュニケーションの大切さを視野に入れてデザインしています」。

ソフトビニール人形については、製造工程を見直すことが今後の課題だと実感しつつも、工場で見た、色の品質を担保できない廃棄ゾルこその色合いやテクスチャに美を見出し、完成品の背景や周辺も含めて「次の方に受け渡すところまでデザインする」、という意味がOTHER DESIGNの名前には込められているそうです。
Soft Bricolageはその姿勢が徐々に浮かび上がってくるような、幾重にも深みのある作品でした。
