シーズル・ボーシンさんはミラノの学校でファッションデザインを学んだ後、コペンハーゲンとミラノの両都市でファッション業界をベースに仕事をしてきました。それが数年前、合理性ではどうしようもない状況において、ひたすら手を動かすことの効用に気がつきます。ろくろに集中すると自分自身を解放できるのです。
広い荒野に光が差し込むような感覚だったに違いなく、その経験を境に彼女はファッションとセラミックという二つの分野で仕事をしようと決めました。工房のガラスに「Think less. Create more.(考えるのはほどほどにせよ。それよりも創造せよ)」と彼女の信条が書いてあるのは、以上のような経緯からです。
ガラス張りのため、毎日、誰かしら訪ねてくるようです。チーズショップの人、ワインショップの人、周辺の店で商売をしているさまざまな人が面白がって「一緒に何かやろう」と言ってくれます。単なる好奇心で雑談をしにくる人もいます。ネットワークをどうつくろうと考えることなく、ネットワークが自ずと流れるようにつくられていくのです。
そのプロセス自体がボーシンさんにとっては楽しいし、街行く人もそのプロセスを眺められ、その人たちは「ああ、また新しい人があの場所に興味をもったのだな」と場のダイナミズムを感じることができます。
ボーシンさんはファッションの世界にいるのでラグジュアリーの意味の変化を身をもって感じています。自分の小さな工房が従来的なラグジュアリーとはかけ離れていながら、今、世界中の人たちが探し求めているラグジュアリーの意味に近いところにいるだろうとの自覚はあります。
工房の名前は「Fluuido」。イタリア語の「流動体の、滑らかな、よどみのない」を意味する「fluido」のuを2つにして、より流れを強調しています。街の人たちからの上述したような反応をみると、名前に相応しい展開がされていると言ってよいでしょう。
澱みのない流れというのは美しいものです。


