
「湾岸諸国と共通点があるものの、1つ目は、ターメリック、シナモン、カルダモン、ブラックライムなどのスパイスをたっぷりと使い、料理に複雑なレイヤーを加えていること。2つ目は島国ならではのシーフード。エビのジャレーシュ(ひきわり小麦と一緒に煮込んだもの)やマチュブース・サマック(魚入りスパイスご飯)などの料理があります。真珠貿易を通じてインドやペルシャの影響も大きく受けています」
筆者も参加したが、シーフードの鮮度がよく、他の中東地域と比べて脂肪分が控えめで、すっきりとした仕上がりが印象的だった。また、シェフたちの間からはブラックライムの使い方など、料理に関する質問も飛び交い、お互いの食文化について知る深い交流の時間となっていた。回数を重ねるにつれて生まれてゆくコミュニティも、このフォーラムの大きな価値の一つと言えるだろう。
美食と旅、パワーコンテンツの相乗効果を
2日間にわたったイベントは、UN Tourismの世界旅行観光市場インテリジェンスおよび競争力担当チーフのサンドラ・カルバオ氏による、12カ条で総括された。
1. 美食観光は成長する経済部門であり、経済を多様化するための大きな可能性を秘めている。
2. アワードや表彰の重要性。それにより、旅の目的地やレストラン、シェフの存在に気づいてもらうことができる。
3. 官民の協働。多くの地域が美食とガストロノミーツーリズムにおけるワーキンググループやタスクフォースを持っている。
4. 本物であること、レシピや料理、昔から食べられてきた食材などの料理の遺産の回復。
5. イベントを行うこと、ただし、可能な限りサステナブルな方法で。
6. ニッチなインフルエンサーと協力したソーシャルメディアが鍵となる。予算によって、リーチが決まるわけではない。
7. シェフの主要な役割は、料理と、料理文化を伝えること。
8. 訪れる人たちが責任ある行動をするよう協力すること。
9. フードウエストとの戦いは始まっている。
10. ファーム・ツーリズムの規範を作り、生産者がサービスをすることを許可する。
11. 物語とブランドの背後には、文脈と戦略がある。
12. 不確実性と混乱の時においても、食は私たちを繋いでくれる。
アワードやSNSなどのネットワークが世界の食を繋ぎ、飛躍的に進化させたのと同じように、文化の保全や地方活性化などへの切り札でもあるガストロノミーツーリズムも、今つながりを通じて革新を始めている。
美食と旅という、二つのパワーコンテンツがもたらす効果は計り知れない。それぞれの国や自治体が自らのブランディングに切磋琢磨するだけでなく、こういったフォーラムを通じ、お互いに顔を合わせて情報や知識を共有することは、国境を越えて協働し、未来に向けてより良い解決策を見出すことにもつながってゆくだろう。