食&酒

2025.01.15 15:30

ユネスコの文化遺産に決定!日本酒は「世界酒」になるか

今や日本酒は日本だけの文化ではない。訪日観光客が帰国した後も、自国で酒に触れる機会が増えている。マクアケ創業者による好評連載第48回。


このコラムでも何度か言及してきたが、私は日本酒が好きである。和食やすしはもちろん、焼き鳥や最近では焼き肉を食べるときにも日本酒を合わせる。そんな日本酒や焼酎、泡盛といった日本の「伝統的酒造り」が、ユネスコの無形文化遺産に登録されたのをご存じだろうか。12月5日(日本時間)にパラグアイで開催されたユネスコ政府間委員会で正式に決定されたばかりだ。

私が日本酒好きになったきっかけは、和歌山県海南市溝ノ口に蔵を構える平和酒造がつくる日本酒「紀土」と出合ってからだ。平和酒造の山本典正社長とは仲良く語り合う仲であるのだが、ここ数年、山本社長は毎月のように海外に行っている。「今晩からベトナムに行く」「昨日までアメリカにいた」というのが、会うたびに当たり前になっているくらいだ。その成果もあって、海外の和食店などでの取り扱いも増え、売り上げがぐんぐん伸びているという。その背景にあるのは、日本酒の世界的プレゼンスの高まりだ。

この山本社長が、ここ数年継続して注力しているものがある。渋谷のMIYASHITA PARKで年に2回ほど開催される日本酒イベント「SAKE PARK」だ。直近では11月16、17日に開催され、平和酒造だけでなく日本中からチャレンジングな蔵元が集結した。

驚くのはそのイベントに参加している人たちの層の厚さである。長年の日本酒好きな“おじさん”だけでなく、若い男女も、そして外国人観光客もたくさん訪れるイベントになっている。

私は先日のイベント会場で外国人観光客に話しかけてみたのだが、日本に来てやりたいことリストのひとつに「本場で日本酒を飲む」という項目を入れていた。自分の国ですしを食べたときに日本酒を薦められて飲んでみたところ、そのおいしさに驚き、日本に来た際にはぜひ日本酒を飲みたいと決めていたのだという。確かに私もフランスに行ったらやりたいことのリストに「本場でワインを飲む」と入れるだろうなと納得したことを覚えている。

9月に大手町で行われた若手醸造家が集まる「若手の夜明け」という日本酒イベントも大盛況だった。代替わりで若社長になった蔵や若手の杜氏がつくる日本酒などが楽しめるもので、こちらも幅広い人たちであふれていた。どちらのイベントもMakuakeでプロジェクトを実行し、成功した取り組みだ。

日本酒を広めるインバウンド客たち

政府は2024年の外国人観光客数が10月時点で3000万人を突破したと発表した。このなかには、日本に来る前から日本酒と出合っていた人もいれば、訪日をきっかけに初めて飲んだ人もいるだろう。海外に行くと、和食店やすし屋のみならず、焼き鳥屋や焼き肉店もじわじわと増えており、現地の日常的な外食先として生活に入り込んでいるのを感じる。観光客が自国に帰ってからも、日本酒に触れる機会や環境が広がっているのだ。強烈なインバウンドの数がそのまま日本酒文化の世界的広がりに寄与している。「日本酒」が「世界酒」になる転換点が近づいている。

24年初めに起きた能登半島地震では多くの酒蔵が被害を受けたが、Makuakeのプラットフォームを利用した「能登の酒を止めるな!」というプロジェクトも立ち上がり話題になった。これは全国の蔵元が能登の杜氏たちに自社の蔵を使用して酒造りを続けてもらう互助的な活動であり、現在第3弾まで続いている。いよいよ日本人にとってだけでなく、世界中の人にとっても日本酒は広がるべきものであり残すべきものになった。きっと数年後には、またひとつプレゼンスの上がった世界に誇れる日本酒という文化の姿を目にすることだろう。


なかやま・りょうたろう◎マクアケ代表取締役社長。サイバーエージェントを経て2013年にマクアケを創業し、アタラシイものや体験の応援購入サービス「Makuake」をリリース。19年12月東証マザーズに上場した。

文=中山亮太郎 イラストレーション=岡村亮太

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