ここ数年ソーシャルメディアを眺めていると、年齢・性別問わずあらゆる層が、自作の編み物や本の製本を披露したり、作り方を共有する投稿を頻繁に見かけるようになりました。クラフトは、これまでも、特に社会的に地位の低い人々にアクティビズムの手段として選ばれてきました。
例えば編み物に関しては、部屋の隅で編み物をする家庭的な女性のイメージ、つまり「社会的に影響力のない人の趣味」という固定観念を逆手にとった運動が印象的です。トランプ政権に抗議したプッシー・ハット・プロジェクトや、公共物をゲリラ的に編み物で覆って問題の社会意識を訴えるヤーンボミングがその一例です。

クラフトの広義な社会的役割については、アメリカの社会学者リチャード・セネットも、2008年に発表した『クラフツマン: 作ることは考えることである』で論じています。
セネットは、クラフトは単なる技術ではなく「物事をうまく行いたい」という人間の基本的な衝動だと定義します。そして、クラフトには、経済的な報酬では得られない自己価値の源となるポテンシャルがあると述べます。自分からは自立した別の「何か」を目の前に作り上げることで「私はこれを作った。だから私は存在する」という実感を得る。クラフトによって、世界における自分の居場所や、自分が存在することの意味を直に感じることができるのというのです。
またセネットは、クラフトの社会的側面についても言及します。他者との共同作業が不可欠な行為だからこそ、その過程で忍耐力や集中力、自己批判能力を養うことができます。このような能力は単独作業の中でも培われますが、人との関わりの中で不安や防衛心を感じずに、作業に集中し、ものを作り続けていくには、メンターや仲間といったコミュニティーが重要だといいます。