ラグジュアリーでは「エスクルーシブ」もキーワードにあがります。他人との差別化という文脈で、これもラグジュアリーへの閉鎖的な見方を招きやすいです。
しかし、新しく浮上しているエスクルーシブの意味は、自分の感覚にフィットする方にウエイトがあります。他人との比較ではなく、自分自身の気持ちや感性に合うことにこだわります。ですから、職人技も、そうしたオーダーメイドの欲求に沿うとの方向で見られると良いなと願っています。ちなみに、ブルネロ・クチネリも盛んに語るのは、ローカルとユニバーサルの両立です。
職人技と文化アイデンティの関係、ローカルとユニバーサルのバランス、こうした領域にラグジュアリーのテーマがシフトしてきていると感じています。特に、9月にヴェネツィアで開催されたクラフトの祭典、ホモファーベルを訪問してその感を強く持ちました。このホモファーベルはカルティエなどを傘下にもつラグジュアリーコングロマリットのリシュモンが関わるミケランジェロ財団によるものです。ラグジュアリーはビジネス分野でソーシャルイノベーションをおこす存在であるとぼくは考えているわけですが、このクラフトの意味の転換に期待することは大きいです。
『新・ラグジュアリー ──文化が生み出す経済 10の講義』の「はじめに」を書いたのは、2022年2月26日です。その最後に以下を記しました。ロシアがウクライナに侵攻した2日後です。
「最後に。2022年2月24日以降の世界状況を踏まえ、以下を追記します。この状況によって本書に記載している内容を変更する必要はないのですが、この本を手にした方々の読み方は大きく変わってくるかもしれないと考えています」
あれから2年半が経ち、ぼく自身の見方が大きく変わってきた点が上記のクラフトの意味です。前澤さん、そうした分岐点に来ている印象を持っていますか?