子どもの時から廃材が身近にあったなかで育ったということはあるでしょう。もちろん、SAIB EGGERグループが取引する廃棄物納入業者は化学的に危険なものが混入しないようなチェックを行っているという信頼関係もあるでしょう。ただ、彼女の頭のなかは合理的かつオープンなのではないか──。
廃材を使ったチップボードメーカーが循環経済の主人公に躍り出たのは、何も時代の潮流にのっただけではない。廃材を愛おしく扱う文化を創ろうとする強い意思と工夫があったからではないか。ショールームにあるアレッサンドラ・キアッピーニの作品の数々がしっくりと空間、つまるところ企業のビジョンに合っていたのかもしれないと考えました。
ことの焦点は材料そのものではなく、材料の見方と使い方にある。企業とアーティストの関わりは、時に「企業の社会的弁済」となることがあります。よってSAIB EGGERグループにみるように企業のアートとの付き合い方が明確であることが、いかに企業の社会とのコミュニケーションにとって大切かが分かります。
最近、32歳という若さで亡くなったピーノ・パスカーリ(1935-1968)の回顧展をミラノのプラダ美術館で見ました。彼もアルテ・ポーヴェラの活動メンバーの1人です。そこで、ふっと気がつきました。SAIB EGGERグループの創業者がポプラの根っこに目をつけた時期とアルテ・ポーヴェラの活動時期はダブるのですね。
もし、あの時代に創業者がアルテ・ポーヴェラに関心があったなら(いや、関心があったかもしれませんが)、彼女はアーティストとどのようなことを企画しただろうか? と妄想しています。
前澤さん、企業とアートの関係というとマーケティング戦略の一環として語られることが多いです。殊にラグジュリー領域では、そうです。『新・ラグジュアリー ──文化が生み出す経済 10の講義』のなかで、アートがプライベートコレクションの対象からコモンズに移行する可能性を示唆する、アートビジネスを研究している経営学者の意見をぼくは紹介しました。
SAIB EGGERグループはコモンズとしてアートを扱っているわけではないと推察しますが、循環経済の鍵を握る同社のような存在がアートとどう付き合うかは大きな示唆を与えてくれるように思います。ここに新・ラグジュアリーが参照すべき姿があるのではないか、と思ったのですが、如何でしょうか?