アート

2024.08.15 14:15

イタリア企業のアート展示はなぜ「しっくり」感じられたのか?

アレッサンドラ・キアッピーニの作品

1989年以降、旧東独では多くの建築物が壊され、大量の廃材が出ました。ドイツ国内は木材供給源が十分であったのですが、イタリアでは不足しており、イタリアの企業がこれらの廃材に目をつけました。それが結果的に廃材の有効利用を促すきっかけになったのです。
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1994年、SAIBは廃材のみでパーティクルボードを生産する技術を確立しました。ここで生産された製品が家具などの部材として使用されることになります。

日々、イタリア国内、スイス、フランスから廃棄物を積んだトラック150台が到着し、工場脇のいくつもの山になる。そこには木材だけでなく、アルミニウム、プラスティック紙、テキスタイル、鉄などさまざまな廃材が混ざっています。それらを24時間稼働で仕分けし、最終的にパーティクルボードに仕上げていく。多くは表層材を含んだ製品を家具メーカーに直接供給するわけです。彼らが使えない廃材は、その分野の専門業者に売却します。

アートが企業の姿勢を示す

6月後半、ミラノから南西にクルマで1時間ほど行ったピアンチェンツァ郊外にある同社を訪れました。オフィスに足を踏み入れて最初に目に入ったのがギャラリーで開催されているアートの展覧会でした。生地などの廃材を使った作品です。
廃材を使っているアレッサンドラ・キアッピーニの作品。

廃材を使っているアレッサンドラ・キアッピーニの作品。

作家、アレッサンドラ・キアッピーニのプロフィールをみると、ブレラ美術大学で師事した教授の1人にルチアーノ・ファブロ(1936-2007)がいたとあります。ファブロは1960年代にイタリアにおこった美術運動、アート・ポーヴェラの重要なメンバーでした。日常生活で使われている「アート作品の材料とは見なされにくかった材料」を使った人ですが、キアッピーニもそうした材料を使っています。

クララ・コンティにアート展示する趣旨を尋ねると、「この地域で活躍する人たちを応援すること。もう一つは廃材を使うアーティストの背を押すこと。これらのどちらか」と明快な答えが返ってきました。キアッピーニはこの地域を拠点に活躍するアーティストであり廃材も使うので、両方の条件を満たしていることになります。
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そこから工場内を案内してもらいました。生産プロセスを遡るかたちで、パーティクルボード制作工程、廃材の仕分けをみました。すべてのプロセスが自動化しています。コントロールルームにはプロセスを監視する制御パネルがずらりと並んでおり、そこに1人いるだけ。何らかトラブルが生じた時に現場に駆けつけるスタッフはいますが、驚くほどに現場に人が少ないです。
多くのプロセスが自動化している工場内(c)安西洋之

多くのプロセスが自動化している工場内(c)安西洋之

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文=安西洋之(前半)・前澤知美(後半)

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