ロシア軍の砲兵もウクライナ軍の砲兵も、榴弾砲などの大砲を枝葉や偽装ネットで覆ったうえで樹林帯に隠し、数発射撃するのに十分な距離と時間だけ外に出し、射撃後はすぐに再び隠す、というのが標準的な運用の仕方になっている。
大砲の射撃陣地を変える場合は慎重に行う。敵のドローンに監視されていないことが十分確信できない限り、陣地転換は控える。
こうした固定的な陣地を拠り所にする砲兵戦術に対して、より機動的な「シュート・アンド・スクート」(撃って移る)と呼ばれる砲兵戦術もある。これは、新たな射撃陣地に入って砲弾を数発発射したあと、急いで新たな射撃射撃に移動する、という戦い方だ。次の陣地は数km離れていることもある。
シュート・アンド・スクートは、絶えず移動することによって、三角測量で発射地点を割り出して撃ち返してくる敵砲兵の努力を無駄にしようとするものだ。
戦場をドローンがほぼ常時監視するようになる前の時代なら、この方式はうまくいったかもしれない。だが、いまでは現代的な軍隊はすべて基本的に、24時間体制で戦場全体を監視するようになっているので、とくに日中、樹林帯や壕など遮蔽・防護物の外に出るのは自殺行為に等しい。隠れたまま敵の砲撃をやり過ごすほうがよい。
この戦争の装備の損害を独自に集計しているアナリストのアンドルー・パーペチュアは、かねてシュート・アンド・スクート戦術に強く反対してきた。その根拠として、ウクライナ軍のドイツ製パンツァーハウビッツェ(PzH)2000自走榴弾砲の例を挙げている。PzH2000は高い機動力を誇るが、ウクライナではたいていの場合、偽装され要塞化された射撃陣地に張り付いている。
「ウクライナでPzH2000が生き残っているのは、シュート・アンド・スクートしているからだと言う人をよく見かける。けれど、わたしが映像で見たPzH 2000はどれも、例外なく、シュート・アンド・スクートしていなかった」とパーペチュアは書いている。「そして、シュート・アンド・スクートしなかったからこそ、PzH2000が生き延びたという事例はとても多い」
パーペチュアは、シュート・アンド・スクートは実際は有効ではないとの見解も示している。おそらく、6回攻撃を受けたAS-90についても、もし乗員たちが車両を隠れ場所から出して、急いでその場を離れようとしていたら、もっと多く、もっと早く被弾していたはずだと言うだろう。
A TOS tried to shoot and scoot. Nobody told the TOS that shoot and scoot isn't a thing. Let's see how it worked out for them. https://t.co/l4HlDPDIgG pic.twitter.com/aUP1TiJhUT
— Andrew Perpetua (@AndrewPerpetua) May 23, 2024