ミラノと丹後の出逢いから考える「インバウンド以降」の日本

「世代」の視点が、スタイリングに終わらないインバウンドのあり方に示唆を与えてくれるはず、と思った理由はここにあります。文化を「国」や「歴史」といった遠い物語よりも、自分を起点にした世代間の影響の累積として掘り起こし、構想していくことの方が、結果的に多角的で触感のある長期的思考に辿りつきやすいはずです。

親世代が「戦闘不能」になるのを待たずとも、意識的にその世代やその前の世代の決断が自分の価値観に与えた影響を振り返ること、そして自分の決断が次の世代に与える影響を想像することは可能です。
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この思考が2つ目のキーワード「relatability(関連や共感のしやすさ)」に繋がります。英語のままにした理由は、relateには親族の関係性という意味もあるからです。世代思考で自分の文化を見られるようになると、交流相手の文化も人の営みの累積として捉えることができると思います。この状態がC&Cミラノが指摘した「国際的なメンタリティ」ではないでしょうか。

C&Cミラノを動かしたのは、丹後で生き生きと活動する若い人の姿だったそうですが、それはC&Cミラノ側がテキスタイルを媒体に、丹後の文化から「人々の生き方や社会のあり方」を感じ取る土台があったからだと思います。彼らが長期的な視点とテキスタイルというrelatabilityを持ち合わせていたからこそ、丹後側が図らずとも、その美点を「日本だから」「工芸だから」ではなく「未来の人」に見出したのだと思うのです。

長期的思考で「生き方」を表現していく場所が新しいラグジュアリーであるならば、そのためのインバウンドは、生き方のさまざまな表現が交差する機会であり、協力してより良い社会をつくっていく関係性づくりの第一歩だと捉えるべきではないでしょうか。相手が異文化者であれ別世代であれ、人間としての「relatability」を探求した意見交換やコラボレーションをしていくのが、新・ラグジュアリー的姿勢だと私は考えます。

文=安西洋之(前半)・前澤知美(後半)

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