バンドの生演奏のあるイタリアン「モンズ」では、32歳まで歌手をしていたというジョバンニ・マウロシェフが、コースの最後にステージに上がり、歌でも店内を盛り上げた。「歌手もシェフも、どちらの自分の夢。両方叶えられるのがラスベガスという街」と語るなど、エンターテイメントの街として、食を楽しむ活気がそこここに感じられた。「夢」はラスベガスのDNAでもあるのだろう。
「夢」を下支えする多様性
50 BESTのチャールズ・リードCEOは、「パンデミックを経て、今こそ美食の世界を祝し、そのレベルをあげて、人々にレストランの魅力を伝えることに集中すべき時。50ベストはそのために人々を繋いでいきたい。ここに集まったシェフやメディアの数が、その証だ」と、再びファインダイニングという夢を見る時代を賞賛した。その「夢」を下支えするものは何か。コンテンツディレクターのウィリアム・ドリュー氏は、2024年の美食の世界を代表するキーワードは「多様性」であると語る。
食の世界に変革をもたらす店に贈られる「チャンピオン・オブ・チェンジ賞」には、イタリアのマッシモ・ボットーラシェフのもとで働くジェシカ・ロスバルシェフのプロジェクトで、職を得ることが難しい難民の女性に料理を教え、母国の料理を調理してもらうレストラン「ルーツ」などが選ばれた。
授賞式に先立って行われる「50ベスト トーク」のテーマは、新しい才能を見つけるという思いからつけられた「宝探し」。それは同時に、これまでにない新しい切り口で既存の飲食業界を見つめ直すことで、不可能だと思われてきたことを可能にしたり、新たな世界を切り拓き、未来の明るい展望を見出そうとする世界の動きにも捉えられる。
例えば、オーストラリアの魚にフォーカスしたレストラン「セント・ピーター」のジョシュ・ニランドシェフ。魚の目玉のコラーゲンを使ったヨーグルト味のアイスクリームを、チョコレート味のパンで挟んだ「アイスクリームサンドイッチ」を提供し、天然魚を使う代わりに、未利用魚を活用したり、目玉や骨なども廃棄せず、無駄なく魚を使い切るというアプローチを紹介した。