広告モデルではコンテンツ制作にせいぜい数億円単位ぐらいまでしかかけられませんが、仮に年間30億円の収益が得られたら、コンテンツに10億円かけられる、というふうになってくると、10億円規模のXRコンテンツはこれまでそうそう存在しないので、世界中から人を集められるコンテンツになります。
そして街なかの空間レイヤーでも、あの美術館では色々な説明が出てきて面白いねとか、ゲームのキャラクターが遊びに来てるらしいよとか、アーティストがバーチャル路上ライブやってるよといった賑わいを日常的に生んでいく。
私たちは先ず、渋谷でこうした街づくりをどんどん仕掛けていきたいと考えています。
最初はApple Vision Proを貸し出したり、スマホで体験してもらうことになりますが、徐々にギークな人たちが自分のデバイスで世界中からやって来るという状態が、2028年頃から30年の間にできてくるんじゃないかなというふうに思っています。
そういった空間コンピューティング時代の新事業を創出するための共創型のオープンイノベーションラボ「STYLY Spatial Computing Lab」も、パートナー企業とともに立ち上げました。Apple Vision Proを活用したユースケース創出から社会実装まで、研究開発を進めていきます。
空間コンピューティング時代「スマホがなくなる日」がやって来る
──渡邊さんは、2000年代にブームとなったリンデンラボ社運営のメタバース「セカンドライフ」を日本で広めた仕掛人で、その頃からメタバース・XR領域に携わって来られました。最後に、いま感じていることや伝えたいメッセージがあれば聞かせてください。Apple Vision Proを毎日使ってみて、この空間コンピューティング時代の到来はもう止まらない流れだと確信しています。「スマホがなくなる日」はいよいよやってきます。
ただ、私たちが空間コンピューティングでやろうとしているのは、今まで価値を持たなかったことに価値を付ける、あり得なかったことを実現させるということがコンセプトなので、今の段階でこのイノベーションはとてもわかりにくいんですよね。
「スマホがグラスになるだけでしょ?」とか「こんな大きなゴーグルなんて誰もつけないよ」と気に留めなかったり、アンチ的な見方もしばらくはいっぱい出てくると思います。
でも、PC、スマホとコンピューティングの時代を拓いてきたアップルが、空間コンピューティングという新しい時代作りに本気で臨んできて、もちろんこの分野をある意味先行してきたメタやグーグルも一層力を入れてくるでしょうから、少なくとも一回は大きなゲームチェンジが起こります。
そのことに気付いている人たちがチャンスを虎視眈眈と狙っているし、そこに乗り遅れると日本はまたインターネットやスマホ時代と同様に、皆さんの推しや情報やビジネスが海外におさえられることになります。
ですので、やっぱりこういった時代のトレンドをチェックして、自分たちの生活や業界が空間コンピューティングに変わったらどうなるんだろう、と妄想だけでもしてみていただきたいと思います。
そして、こうした近未来にコミットしたい、新たな世界を真剣に考えてプロトタイピングして作り出していくということに一緒に取り組んでいこうと思ってくださる方はぜひ参画していただけたらと思います。
メタバースブームの時に、始めて3ヵ月で売上はあがったか?とか、失敗だとか言い出したような方は多分合わないと思います(笑)。
アップルもメタもグーグルも、数兆円単位をかけてやってきているわけですから、短期的なブームを無理に起こそうとはせず、少し長いスパンで取り組んでいます。
Apple Vision Proが見せてくれた、来るべき空間コンピューティング時代に向け、私たちもクリエイターと一緒に未来を作っていく、日本再興のチャンスを掴むといった気概をもって、挑んでいきたいと考えています。
渡邊信彦◎1968年千葉県⽣まれ。群⾺⼤学⼯学部卒業後、電通国際情報サービスに入社し、2006年執⾏役員、2011年オープンイノベーション研究所所⻑就任。セカンドライフブームの火付け役としてXR事業を推進。2014年に同社退社後、起業・イグジットを経て、日本人材機構の初期メンバーとして地方企業の育成コンサルに携わる。2016年、Psychic VR Lab(現STYLY)設立に参画し、取締役COO就任。2018年にXRプラットフォーム「STYLY」を用いて、ヨウジヤマモトと国内店舗でパリコレのランウェイの体感VRイベントを開催。KDDI、JFR、テレビ朝日HD、東急不動産HD、日鉄興和不動産、JR西日本イノベーションズ等から出資を受け、体験型XR事業を全国各地で進める。事業構想⼤学院大学の教授として人材育成にも尽力。6月19日に初の著書『Apple Vision Proが拓くミライの視界 スマホがなくなる日』(幻冬社)を上梓。