オルタナティブ投資の時代
新しい投資戦略はオルタナティブ投資と呼ばれ、成長がすべて。物流やインフラ、生命科学、Eコマースといった分野の企業を買収し、それを小さくではなく、大きくするというものだ。昔ながらのバイアウトファンドでは、投資ファンドの寿命は10年ないし12年に限られ、それが企業の売買を容赦なく繰り返す文化の形成につながったが、現在、業界で最も注目されている資金調達手法は「パーペチュアル」と呼ばれる、個人投資家が利用しやすい、運用期間の定められていないバイアウトファンドだ。ウォーレン・バフェットのバークシャー・ハサウェイと同様に、ブラックストーンのこの新たな手法は、企業を買収して保有し続ける「バイ・アンド・ホールド」で、償還を制限することでそれを実現している。このパーペチュアル・ファンドは、10年前にはほぼゼロに等しかったが、今やブラックストーンの運用資産1兆ドルの38%を占め、手数料収入でも大きな割合を占めるようになっている。
パーペチュアル・ファンドは、グレイがブラックストーンで考案した。この54歳の社長兼COOは同社を世界最大の総合投資会社につくり変え、JPモルガンやBNPパリバ、HSBCといった古くからの巨大商業銀行に直接挑む指揮を執っている。自身の保有資産額も70億ドルを超えるグレイは、こう語る。「PE投資は、我々の親の時代とは異なるものになっています。以前なら、PE投資会社が最も低コストの資金を提供するようになるとは誰も思わなかったでしょう。今や私は、信用格付A格やAA格でも貸し付けていますから」
23年9月にオルタナティブ資産運用会社としては初めてS&P500種株価指数の構成銘柄に採用されたブラックストーンは、すでに世界で230の企業を保有しており、総従業員数は65万人と、アポロ・グローバル・マネジメントやKKRといった競合をはるかにしのぐ。他の追随を許さない運用資産残高3370億ドルの商業用不動産投資ポートフォリオは世界の1万2000件の不動産で構成され、その総床面積は約1億220平方メートルになる。
グレイはご機嫌だ。
「オルタナティブ投資の時代が到来しています。投資家がオルタナティブ資産に投資しても大丈夫だと気づいたのです。それはつまり、私たちの投資戦略のマーケットが大きくなったということです」
ウォール街の新たな覇者たちのなかで、ジョナサン・グレイほど気取らない人はそういない。ペンシルベニア大学で英語と経済学を専攻。卒業後にブラックストーンに入社して以来、同社一筋だ。
育ったのはイリノイ州シカゴ郊外の中間層の家庭で、6歳のときに両親が離婚した。ハイランド・パークで高校時代を送ったが、当時はニキビに悩まされ、恋人もなく、人前で話すことが苦手だった。
「人気者やスター選手、模擬国連クラブのキャプテンといったタイプではありませんでした」(グレイ)
ブラックストーンの社員なら誰でも、グレイが高校2年生のとき、バスケットボール部でシーズン中ずっとベンチを温めていたことも、その年の彼の高校の成績が1勝23敗だったことも知っている。
グレイは1992年にブラックストーンに入社。最初の1年はアナリストとしてニューヨークで働き、上級スタッフのために数字を分析し、ピッチ資料の準備をしていた。ブラックストーンの不動産部門を統括するシカゴ拠点のジョン・シュライバー(77)は当時、グレイとは隣席だったという。