マーケット

2024.05.24 15:30

利益の源泉はいつも「革新的な手法」ブラックストーンが語る世界制覇の戦略

アジア、欧州でのさらなる展開

「こうした新商品を常に充実させておくつもりです」とシュワルツマンは得意げに語る。

「販売会社ではオルタナティブ投資の割合はまだ2%ほどですが、その顧客を10〜15%まで増やしたい。ですから、この分野でも爆発的な成長が見込まれ、私たちが世界のトップとなっているのです」

ブラックストーンの1兆ドルの運用資産のうち、約70%は北米、20%は欧州、10%はアジアに投資されている。すでに米国外の拠点はかなりの規模となって総勢1250人が海外オフィスで働いており、さらに拡大する予定だ。

東京の金融街にある丸の内ビルディングの10階の会議室には、ブラックストーンの日本の不動産部門を率いる橘田大輔、PE投資のディールメーカーである坂本篤彦、そして75人体制の日本事業の会長を務める重富隆介が集まっていた。重富は21年にブラックストーンに入社。その前はモルガン・スタンレーのグローバル投資銀行部門でバイスチェアマンを務め、さらに前は三菱UFJフィナンシャル・グループに在籍していた。金融業界40年のベテランである重富の役割は、元大使のジェラール・エレラと同じく、大手銀行が支配する規制の厳しい市場で道を開くことだ。

ブラックストーンは、すでに日本の不動産に70億ドル近く投資している。また、20年に武田薬品工業からアリナミン製薬を買収する交渉をしていた際には新型コロナのパンデミックが発生したが、日本への渡航が制限されていた間も現地チームが対面で面談を行い、取引をまとめた。この時の23億ドルという買収額は、今も日本のヘルスケア部門史上最大の規模になっている。

データ調査会社アルトラタによると、日本は資産家数で米国、中国、ドイツに続く世界第4位。政府は国民が約13兆ドルの個人金融資産を保有していると推測しており、そのうちの約50%は現金または低利回りの銀行預金だ。ブラックストーンにとって朗報なのは、政府の規制改革によってついに日本の5兆ドルの資産運用市場が開放されつつあることだ。

ブラックストーンはすでに野村證券と手を組んでBREITの資金を募っているほか、大和証券とも提携しており、その顧客はBCREDの変動金利債券に円を注ぎ込んでいる。

ブラックストーンの海外拠点はロンドンが群を抜いて大きく、600人の従業員を抱えている上にメイフェアに新しいオフィスビルを建設中だ。欧州大陸も新規事業開拓に適した地域になっている。

「不動産投資は人間関係がものを言うビジネスですから、現地市場に溶け込まなければなりません」

5つの言語を操り、ブラックストーンの欧州不動産事業部を統括するジェームズ・セパラは言う。昨年は欧州地域にとって飛躍の年だった。ブラックストーンの不動産事業の約50%を、欧州が占めたからだ。欧州では、投資のテーマはとにかく物流だ。ブラックストーンは欧州最大の賃貸物件所有者で、1000億ドル以上の資産を保有し、その半数は倉庫や流通施設、フルフィルメントセンターだ。

プライベート・クレジットや不動産と同様、パーペチュアル・ファンドはブラックストーンが世界制覇を目指す上で大きな役割を果たすことになる。これはブラックストーンの経営モデルを、売買を繰り返して利益を得る戦略から、買収した企業に加え関連性の高い企業を買収することで企業価値を創出する長期的なバイ・アンド・ビルドへと変えつつある。
次ページ > ワクワクしてしかたがない

文=セルゲイ・クレブニコフ、マット・シフリン 写真=グレリン・ブラスク 翻訳=木村理恵 編集=森 裕子

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年5月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

タグ:

ForbesBrandVoice

人気記事