「美」は、ステレオタイプを乗り越えた先にある?

そのセンスの源泉とブランドのコアを探るために、今回改めて2人に話を聞きました。

フランスに生まれ、その後、日本、アメリカ、スイス、シンガポールと様々な場所で暮らした経験のあるキコックは、小児科医の母の影響で、常に健康とウェルネスについて考える環境で育ちました。彼女は相方のノラが太鼓判を押す美的感覚の持ち主でもあり、その基盤には若い頃に受けた芸術訓練があると言います。

「私は科学・金融畑の人間ですが、10代の頃に絵画や彫刻を習っていました。当時培ったアーティスト的感覚は私の生き方に反映されています。Ipsum Aliiとはまさに、ノラと一緒にその芸術的側面を表現する場所でもあります」

ノラは、ドイツ人の母と日本人の父の間にフランスで生まれ、ドイツで育ちました。化粧をすることよりも、自立や家族を支えることに全身全霊を捧げていた母から「美しさとは強さや実用性である」と感じ取り、日本とフランスの文化からは「繊細さやディテールへのこだわり」に美しさを見る感覚を学んだそうです。

「私が思う美しさには、異なる文化的要素が共存しています。それらの要素が衝突することもあれば、今まで見たこともない素晴らしいものを生むきっかけにもなります」

Ipsum Aliiを通して、漢方を医学としてではなく、実用的な哲学として親しみやすい形で欧州に紹介したかったという二人。Ipsum Aliiの文化アイデンティティはどこにあるのかを聞いてみると、「ユーラシアン、私たち自身のように」と即答しました。アジアをルーツに持つ哲学と美学に、厳しい欧州基準をクリアする実用性やクリーンな原材料を持ち合わせているのだと力強く語ります。

“クリーン”の定義とは

このIpsum Aliiが掲げる「クリーン」は、定義が難しい言葉でもあります。そこで、こんな質問を投げかけてみました。

「近年、『クリーンガール』『クワイエット・ラグジュアリー』などミニマリストな美学が人気を集めています。 しかし、これらのトレンドで持てはやされる清潔さや完璧さは、人間的な欠点を差別することもあると私は感じています。Ipsum Aliiにとって『クリーンさ』とは?」


それに対して二人は、「不要なものがないこと」だと答えます。例えば、余計なリーフレットを入れない、環境にやさしい紙材を選ぶ、必要ない保存料や香料を加えない、必要以上のラインナップをつくらないといったことが、それにあてはまります。
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文=前澤知美(前半)、安西洋之(後半)

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