医師が患者に感謝をするデータ時代の到来
沖山氏はスタートアップ創業者/経営者であり、医師である。医師として毎度診察のたびに患者の状況を把握するための喉を見て、心拍数を聞き、熱を測るという行為において、検査に移行する前に医師が五感を用いて行うのが「診察」だが、この行為をデータとして貯めることによって医師の診療の幅を広げることを目指している。沖山:「皆さん、人生で何十回も病院に行った経験は あると思いますが、その度に喉を開けて見てもらい、胸の音を聞いてもらい、熱を測られますよね。この診察はどの患者でも共通で行われることで、その後、個人個人の症状にあわせてCTスキャンを撮る、採血するなどのパーソナライズされた検査が始まります。なぜ、喉を見る・胸の音を聞く・熱を測る、この三行為が毎回実施されるのか?それは、医師が判断する上で、非侵襲的に集められるデータが豊富にあるからなんです。
アイリスはこの医療の最上流の情報をデータベース化しています。その先の細分化されたAIは医療AIとしてたくさん出てきているのですが、我々は診察の一番ベースとなる情報の集約にフォーカスすることで、その先のパーソナライズされた医療につなげていけると考えています。つまり、医療の原点であり、もっとも上流に位置する「診察」のデータベースを作りあげようとしています。
今までフロー型でその場かぎりの判断のために見ていた患者さんの喉や心臓の音などの情報ですが、全世界の大きな医療データベースができるとストック型になり、未来の診察に役立てることができることにつながります。
そのようなデータを中心とした医療の世界を作ることにより、今までは患者が医者に「診察してくださりありがとうございます。」と言っていたのですが、これからは医療者 が患者さんに「診察に来て頂いたことで、未来の医療も発展しますね。ありがとうございます」という世界がくる のではないでしょうか。実はこれまでの医療も既に、症例報告や臨床研究という形で、いち受診やいち症例が未来の医療に繋がっているのですが、データやAIという文脈で、患者さんに価値が還元されるサイクルが日に日に速まっています。」
病院に向かう患者としてはとにかく今ある症状を治してもらいたいので、都度、喉を見て・胸の音を聞き・熱を測られることに疑問を感じてなかったのだが、この毎度の診察のデータが貯まることにより自分の過去データとの付き合わせができるだけではなく、未来の医療の発展にも寄与できるようになる。沖山氏率いるアイリスは今まで当たり前と流していた一つ一つの医療行為もちゃんと価値あるデータに変換しストックしてくれる。そのために、創業から最初の2年はカメラ作りに専念し、その後、データを貯め、AIを開発し現在に至るという。
医師という存在は未来もありがたい存在であることは変わりないが、診察データを提供する患者という存在が医師に感謝してもらえる存在となるのは新鮮な感覚がある。沖山氏は「医療というのは患者なくして成立しない」と言うが、データを軸に見ていくと医師と患者の関係性もよりフラットに相互依存の関係であることが実感していけそうである。