アイリスではさまざまなステークホルダーを巻き込みながら進めていくアプローチをとっています。現在約80名が在籍しているのですが、私を含めて医師が五人、厚労・経産・財務省など行政出身メンバーもいますし、医師会や学会のメンバーもいます。外部のステークホルダーたちと共通言語でコミュニケーションできるメンバーが中にいることが一歩でも医療業界のイノベーションを進めるために大事なアプローチだと考えています。」
産業界と医療業界の垣根を低くしていくことが未来の医療への第一歩
さて、アイリスおよびIBMの取り組みを聞いていると、医療×AI/テクノロジーは地域格差を埋め、また、医療へのアクセシビリティーを高める良いものであることを実感できる。それでは、なぜ普及に時間がかかるのだろうか? 制度の問題なのか? 金銭的な問題なのか? ── 沖山氏は医師が持つプロフェッショナルオートノミーという考え方を理解する必要性を教えてくれた。沖山:「医療はプロフェッショナリズムとプロフェッショナルオートノミーで成立している分野です。プロフェッショナルオートノミーとは、自分達自らで高め合っていくという意味なのですが、そのようなマインドセットを大学で学び、現在の医療が成り立っている。なので、外部から「AIが便利だから使えばいい」「電子カルテを導入せよ」と一方的に言われても、自ら考え、実践している医師からすると「外部から言われたから動く、ではなく、医師としての自らの納得の上で動く」ので外部のメッセージでは動きづらい。
慣性の法則はご存知だと思いますが、動かないものは動かない力を持っているのです。それを動かすにはエクストラな力が必要になる。例えば、日本の地方ではスマートフォンをお持ちでは無い方がいますが、あったら便利とはわかりつつ、究極無くても困らないから”持たない”という状態が続いている。電子カルテも便利ですが、日本の電子カルテの普及率は50%です。現状困ってないから”変えない”という力学が大きく働いているのです。
私もまだ答えはないのですが、技術発展に従って適切な医療のアップデートを促す仕組みや テクノロジーも必要だと思っております。また、大学の変革も大事だと考えており、例えば 「医学部経営学科」のように、医学部における医学科以外の数が5倍10倍ぐらい増えると色々と変わってきそうです。」