欧州

2024.04.03

ロシア軍の記録的な戦車大損害はなぜ起きたか にじむ焦りと侮れない「底力」

ロシアの主力戦車T-90(Shutterstock.com)

ウクライナ東部ドネツク州のウクライナ側の防御拠点だったアウジーウカ市の廃墟をロシア軍が占領し、さらに西へと進撃するなか、ロシア側では重要な部隊が待機していた。

ロシア軍第90親衛戦車師団の作戦予備である第6親衛戦車連隊である。第6戦車連隊は、いわば「突破部隊」だ。アウジーウカの西方でウクライナ側の防御に探りを入れている自軍部隊が脆弱な箇所を見つければ、そこを突いてウクライナ側の後方に一気に攻め込み、大きな打撃を与えるのがその任務だった。

それなのに、第90戦車師団はなぜ3月30日、第6戦車連隊を、アウジーウカ西方のトネニケ村のすぐ西にあり、ウクライナ軍の精鋭部隊である空中強襲軍隷下の第25独立空挺旅団が配置されている、穴のない防御陣地に対する直接攻撃に向かわせたのか。
白昼に行われたこの突撃は、ロシアがウクライナで拡大して25カ月あまりたつ戦争で、戦車による過去最大級の強襲だった。ウクライナのシンクタンクである防衛戦略センター(CDS)の4月1日の戦況評価によると、第6戦車連隊は当初「(トネニケ)村の北西へわずかに前進した」
だが、この進撃は長く続かなかった。第6戦車連隊のT-90戦車36両とBMP歩兵戦闘車12両は地雷原に突っ込む。そこにウクライナ軍の空挺兵らが扱いに長けた対戦車ミサイルを撃ち込み、さらに爆薬を積んだFPV(一人称視点)ドローンも襲いかかった。乗員や歩兵数百人が乗り込んだ装甲車両48両による突撃は、こうして破滅的な結末を迎えた。

ウクライナ側は「この最初の大規模な強襲を撃退した」とCDSは報告している。第6戦車連隊は退却し、あとには大破した戦車12両と歩兵戦闘車8両、それにロシア兵の遺体多数が残された。遺体は数十体にのぼったかもしれない。

ウクライナの調査分析グループであるフロンテリジェンス・インサイトは、今回の攻撃からは重要な点が2つ観察できると解説している

「まず、この方面のロシア軍は、大隊レベル以上の作戦を実施する能力や十分なリソースを失っていない。これは懸念すべきことである。(ロシア軍が)アウジーウカ(方面)で、1個師団、あるいは定数が充足されていない1個軍団の全滅に相当するほどの大きな損害を出しながら、増強された戦車大隊をなお集結できるというのは、ウクライナ軍の防御にとって脅威になるからだ」
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翻訳・編集=江戸伸禎

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