昨年10月、海外事業の営業責任者が新社長に就任した。自社開発の汚泥脱水機「ヴァルート」を武器に、新たな世界戦略に打って出る。
スコットランドに、「ジョニーウォーカー」など世界的ブランドを複数要するディアジオ社の蒸留所がある。モルト(大麦麦芽)を蒸留してつくるウイスキーは、製造過程でモルトかすが発生する。モルトかすは大量の水分を含むため、脱水して運びやすくする必要がある。ただ、かすを圧しつけて濾す従来の機械では十分に脱水できず、建屋は湿気でカビだらけ。ウイスキー職人たちは、その処理をする建屋に入りたがらなかった。
職人たちの労働環境を劇的に変えたのが、アムコンの汚泥脱水機「ヴァルート」だ。ヴァルートは濾し布を使わないスクリュープレス方式。スクリュープレス方式も使ううちに目詰まりするが、ヴァルートはスクリューを覆う外筒に、可動リングと固定リングの積層構造を採用することで機械が自分で目詰まりを掻き出してくれる。脱水処理力が高いうえにメンテナンスの負担も軽減して、蒸留所の職人たちに感謝されたという。
ヴァルートが活躍しているのはウイスキー工場だけではない。イタリアのワイン醸造所、フィリピンの飲料工場、カンボジアのショッピングモール、メキシコの自動車工場、そして世界各地の下水処理施設。水分を含む汚泥やかすなどが発生するところなら業種を問わず広く使われている。
2023年10月に社長になったばかりの相澤学は、ヴァルートに込めた思いをこう語る。「捨てるものを処理する工程は直接お金を生まないため、投資が後回しになりがち。しかし、働く人の幸せを考えると、本当は最もイノベーションが必要な工程であるはず。アムコンは、そこでイノベーションを起こしたい」
創業者が描いた世界への夢
ヴァルートを発明したのは、創業者の佐々木正昌だった。1974年にコミュニティプラントのメンテナンスを行う会社、環境設備センターを設立。団地などの集合住宅ではコミュニティプラントで下水を処理し、残った汚泥をバキュームカーで吸い取ってし尿処理施設に運ぶ。会社設立の前年に生まれた現会長の佐々木昌一は、ドライブがてらたびたび父に連れられて現場を回ったが、いい印象はなかったという。「友達のお父さんはいつもスーツなのに、父はいつも汚い作業服姿。クリスマスのとき仕事帰りにケーキを買おうとしたら、店員さんに『お金はもってますか?』と疑われて、憤慨して帰ってきたこともありました。将来、会社を継ごうとは思わなかったし、父も『親族は会社に入れない』と公言していました」(佐々木)