SMALL GIANTS

2024.03.16

菓子パンから半導体まで ブラシ屋の世界一の進化を見よ

服部直希|コーワ 代表取締役社長

Forbes JAPAN 2024年4月号』では、規模は小さいけれど大きな価値をもつ企業「スモール・ジャイアンツ」を特集する。「スモール・ジャイアンツ」は、Forbes JAPANが2018年から続けてきた名物企画。会社の規模は小さくても世界を変える可能性を秘めた企業をアワードというかたちで発掘し、応援するプロジェクトだ。このアワードでエボリューション賞を受賞したのが、愛知県あま市に本社を置く「コーワ」だ。

はけから始まった祖業は、総合クリーンメーカーとして見事に進化を遂げた。製造現場を自ら歩き、さらなる高みを目指す。


1935年の創業以来、90年近くあらゆる産業の洗浄や清掃の課題と向き合ってきたコーワ。売り上げ70億円のうち95%近くを工業用ブラシなどの B to B が占める。知る人ぞ知るクリーン産業のトップ企業だが、「世の中をきれいにする」を専業として進化できたのはなぜだろうか。

「弊社の出発点は、はけづくり。創業者・服部良助が、農家との兼業でもできるはけづくりを地場産業にしようとこの地域にもち込んだんです」

そう語るのは社長の服部直希だ。名古屋近郊の愛知県あま市に本社を置き、戦前から戦後にかけ、三菱重工業や豊田自動織機のお膝元で金属製品を磨く工業用ブラシや織機の清掃用ブラシの開発・製造を手がけて大きく成長した。
祖業のはけ製造。現在も1994年に分社化した「インダストリーコーワ」 が塗装用の刷毛やローラー、ブラシなどを製造販売している。

祖業のはけ製造。現在も1994年に分社化した「インダストリーコーワ」 が塗装用の刷毛やローラー、ブラシなどを製造販売している。

「当時は『織機を1回ガチャンと織れば万単位のお金がもうかる』といわれた、ガチャマン景気の時代です。織機が自動化されるなか、機械に綿ごみが詰まって生産が一時止まる『チョコ停』と呼ばれるトラブルが一日に何回も起きていました。そこで弊社が機械内部を清掃してメンテナンスフリーにするブラシを開発し、工場の生産性を上げて長時間稼働を可能にしました。この技術は豊田佐吉さんから評価されました」

「きれいにする」ことの重要性はメンテナンスフリーだけではない。当時、綿ぼこりの多い労働現場では作業者が肺を患うことがあった。ブラシの開発は労働者の健康を守る意味でも真の生産性を上げることになったのだ。

今も愛知県の主要産業である自動車製造には、鋼板やアルミのプレス工程が欠かせない。その現場で使われる同社の洗浄用ロールブラシは国内で8割のシェアを誇る。アルミ業界では100%だ。

「鋼板のプレスには油が使われます。らせん状に巻き付けたスパイラルブラシロールで鋼材を洗浄した後、特殊加工した不織布ロールで油の残油量をコンマ単位で調整し、油を吸引します。これらの工程を製造・提供できるのは弊社しかありません」
(左)中央は 仕切りに使う「シールブラシ」、右下は静電気除去ブラシ。(右)白い洗浄ブラシとお茶の葉を混ぜるブラシ。

(写真左)中央は仕切りに使う「シールブラシ」、右下は静電気除去ブラシ。(写真右)白い洗浄ブラシとお茶の葉を混ぜるブラシ。

創業以来、同社がつくってきたブラシはゆうに数万種類を超える。例えば自動車のエンジン内部を磨き上げ、摩擦係数を極限まで抑えるためのブラシ。家庭のエアコンや洗濯乾燥機に使われるフィルターを自動で掃除するブラシユニットもつくる。

「中小企業であっても、胸を張って日本一や世界一と言えるものが多い会社です。新入社員や社員の家族には『もしもわが社が消滅したら、皆さんの生活に支障が出ますよ』なんて冗談を言っています」

服部は笑いながら言うが、決して大げさな話ではない。ほかにも、収穫時にミニトマトを洗ったり、菓子パン製造の仕上げにバターを塗ったり。私たちが想像する以上にブラシが使われる場面は多い。ブラシといえど、奥が深いことがわかる。
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文=畠山理仁 写真=佐々木康

この記事は 「Forbes JAPAN 2024年4月号」に掲載されています。 定期購読はこちら >>

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