パリに居を移して23年、パリで戦い続ける理由は何なのであろうか。
その答えはふたつあり、一つは素材の良さだという。野菜や肉の味が濃くて美味しいのはもちろん、実は、魚介の質もいい。ヨーロッパの素材に体がまるごとなじんでいるということを差し引いても、日本に帰国して料理をするときには、魚の扱いが一番難しいという。
魚こそが日本の誇るものであると思っている多くの日本人には驚きの発言だが、それは日本の魚が劣るということではなく、寿司や日本料理として出す魚料理もよりも、自らのフランス料理において、それに対抗し得るだけの魚料理を作ることができないからだと明かす。
2つめの理由がワイン。近年の温暖化などにより、トップクラスの値段は天井知らずになっている。それでもフランスに住み、長い間生産者とつき合ってきたことで、直接購入することもできる。ワイン好きの佐藤氏にとって、それはレストランを経営するうえで、大きな喜びであり、メリットだ。
「でもやはり行きつくところは、パリが世界のパリだから」だという。日本では、来日する外国人は日本料理を食べに行くものだ。その日本料理はバリエーションが多く、寿司、てんぷら、すき焼き、割烹、うなぎ……と何日あっても足りないくらいで、よほどのフーディ以外はフランス料理まで足が伸びない。
それに対して、「パリでは、世界中の人が真剣にフランス料理を食べに来るという状況下で戦える。非常にやりがいがあります」と佐藤氏は胸を張る。
それはいわば、大谷翔平がMLBで闘いたいということと同次元の話であって、トップのトップの中で自分の力を試したいという必然なのであろう。
パリで初めて二ツ星を手にした日本人シェフだ。新しいステージに立って、星を意識しないわけはないだろう。