食&酒

2024.04.11 11:45

「Blanc」佐藤伸一シェフは、なぜパリで戦い続けるのか

鈴木 奈央
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正直、だしとも思えるコンソメから始まる食事をフランス人が食べてどう思うのであろうか、感動できるのであろうか。気になって聞いてみると、佐藤氏は「まったく気にしない」という。

「オープンしてまだ4カ月しかたっていないのですが、自分ではすでに前店を大きく超えている自信があります。また、美味しさは世界共通だと思っているので、日本人(私)の味覚とフランス人の味覚のレベルが違うとは思わない。目指す方向がはっきりしているから、人がどう思うかはまったく気にならないですね」と笑って答える。

残念ながら合わない人がいたとしても、好みは人それぞれ。「ご縁がなかったんですね、と思う」という言葉からも、ゆるぎない自信があることがよくわかる。

「エルブリやノーマなど、世界最高峰とされるレストランにも何回も行きました。どこも素晴らしい店ですが、彼らの料理は単純に“おいしい!”というのとはまた違います。オペラやコンサートを観ているように、レストランに滞在する一定の時間をスペクタクルなショーとして楽しませることを一番の目的としているのです。

しかし、日本人はそれだけでは満足できないんですよね。もっと真摯に“おいしい!”を追求したいのです。だから私は、フランスにおいて、フランスの素材で、技法で、その“おいしい!”を目指す料理を作ろうと思ったんです」

その結果が今のBlancの料理なのだ。

例えば、最初のコンソメは、2種の鶏を使い、低温でゆっくりゆっくり旨みだけを移していく。いわば、中華の上湯に近い発想だという。

また、魚料理として出された一皿は、「あんこうのしゃぶしゃぶ」というタイトルだが、骨や皮など不要な部位をすべて炭火焼きにし、オイルにその香りとゼラチン質の旨みを抽出したものをソースにして、羅臼昆布のだしさっと切り身をくぐらせるという、フランス料理にはない技法を用いている。

フランスのあんこうは、日本のそれより身が詰まってぐっと美味しいのだそう。それを、日本の氷詰めの手法で熟成させればもっと美味しくなる。そうした佐藤氏にしかできない料理を日々、現場で展開している。

現在の料理の方向性になったのは、コロナ禍に訪れた日本でのインプットが影響している。予約のとれないような一流店食歩と、多くの店とコラボレーションをするなかで、やはり日本の素材は難しいと感じることもあったが、多くのことを学んだという。

なかでも富山の「レヴォ」と和歌山の「ヴィラ・アイーダ」には、本当に感動したそうだ。
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文=小松宏子

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